第48話 コイオス一族とクレイオス一族の結束
原初の四柱神の一柱である<大地母神>ガイアは、同じく原初の神で、性愛を司る<原愛>の神エロスの力を借りて、息子である天空神ウラノスと交わった。そうして誕生したのが、十二柱のティターン、三柱の一つ目の巨人キュクロペス、三柱の百足の巨人ヘカトンケイレスの十八柱であった。
ティターンの男神は、オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、クロノスの六神、女神は、テイア、レイア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュスの六神であった。
このティターン神族十二神のうち、次男のコイオスは、明るく輝ける女神である、五女のポイベと兄妹婚をし、レトとアステリアという二柱の姉妹女神を得た。
のちに、大地母神ガイアはウラノスと離縁し、息子である大洋神ポントスと母子婚姻をし、ネレウス、タウマス、ポルキュス、ケト、エウリュビアを産んだ。
このガイアとポントスの末子であるエウリュビアは、異父兄にして従兄のクレイオスと結婚し、この異父兄妹の夫婦神の間に誕生したのが、アストライオス、パラース、ペルセスである。
ティターン神族の兄弟、三男のコイオスと四男のクレイオスは、ティターン神族内の地位を確固たるものにするために、両一族の関係を緊密にしようと考え、コイオスの次女で、<星座>の女神アステリアと、クレイオスの三男のペルセスを従姉弟婚させることにした。卓越した知恵者として名を馳せていたペルセスは、ティターン神族のアトラス軍の作戦参謀を務めていた。このペルセスとアステリアの婚礼の儀が執り行われたのは、<ティターン神族>と<オリュンポス神族>との間の十年に及ぶ戦い、<ティタノ・マキア>の最終決戦の直前であった。
だが、この新婚の夫婦神は、初夜の契りを一度交わしただけで永遠に別れることになってしまった。オリュンポス神族の勝利に終わったマキアの後、ペルセスは、Σ(シグマ)級の戦犯としてタルタロス(奈落)送りになってしまったからである。
戦後――
勝者たる、冥界王ハーデス、海王ポセイドン、天界の王ゼウスら、これら三世界の王たちは、敗者となったティターンに属する神々に対する軍事裁判で多忙を極めていた。
「……。そ、それでは、次の神を呼び給え……」
疲労を押し隠しながら天空神ゼウスは、親衛隊の者にそう声を掛けた。
「次は、どこの一族の者だ? ハーデス兄者!!」
海神ポセイドンが、大声でハーデスに問うた。
「たしか……。コイオスの一族の娘たちのはず」
冥界王ハーデスは、静かに弟の問いに応じた。
「まったく、同じことの繰り返しで、いい加減、飽き飽きしてきたわ。敵対したティターン一族の奴らなど、盟約を結んでいたオケアノスの者たちを除いて、もはや全部、<奈落落ち>で、よくはないか?」
「ポセイドン兄、戦いに直接関与したΣ級の神を、即決裁判で<奈落落>という厳罰に処するのはもっともだ。だが、我らオリュンポス神族と、その<譜代>の神々は数が少ない。マキアにおいて敵対した<外様>とはいえども、恭順の意を示し、オリュンポス神族の役に立ちそうな者は、少しでも取り立てるべきなのですよ。寛容の精神、これも王者の度量というものでしょう」
「そうは言うが、ゼウス。ここまで、全ての男神は奈落行、ほとんどの女神は、そなたの宮殿の女官ににしているではないか。これでは、裁判なぞ、時間のむ……」
入室の許可を求める叩音が、ポセイドンの言説を遮った。
一拍置いた後、ゼウスが許しを与えると、扉が開き、肩に小鳥をのせた女神が入ってきた。
「コイオスとポイベの長女レトと申します」
レトは、跪いたまま名乗った後で、ゼウスの許しを得、顔を上げた。
ゼウスは、レトを目にした瞬間、絶句してしまった。ゼウスの心を奪ったのはレトの美しさもさることながら、その肩にいる小鳥のせいであった。
羽衣の色は闇夜のような濃紺で、その表面には星座の如き蒼白い輝く斑点が散りばめられており、まるで満天の夜空の如しなのだ。
進行役のゼウスが、いつまでも口火を切らない様子を見兼ねて、長兄のハーデスが代わりにレトに問うた。
「コイオスとポイベの子は、たしか姉妹二柱の女神のはず。妹御は何処に?」
「わたくしの肩にのっているオルテュクス(ウズラ)こそが、我が妹アステリアが変化した姿なのです」
「何故に、鳥の姿のままなのだっ! 裁判の場で変化を解かないのは、礼を失するではないかっ!」
ポセイドンの怒号が場に響き渡った。
「お許しください。妹アステリアは、異母兄にして従弟であるヘリオスと結婚したばかりなのですが、先のティタノ・マキアの後、新郎がタルタロス送りになってしまったのです。妹は嘆き悲しみ、その末にオルテュクスに変化し、そのまま、自分の意志では元の姿に戻れなくなってしまったのです。我が、コイオス一族への罰は、このレトが全てを引き受けます。なにとぞ、妹と父母は御容赦願いたく存じます」
身を震わせながら平伏し、レトは三神にそう直訴した。
「ふむ。そなたの美しさと気丈さ。余は気に入ったぞ。我がおばでもある、そなたの母ポイベは、我が祖母であるガイアと母であるレイアに、その身を委ねるとしよう。そして、レト、そなたは、このオリュンポス宮殿で、女官として勤めることを命じる。肩に留まっている鳥となった妹アステリアと共に、このオリュンポスで暮らすがよい。だが、しかし、だ。一族の長でありながら、娘に助命を丸投げしたコイオスのことは、正直、気にいらぬ。コイオスこそに一族の責を負わせ、<奈落落>といたす」
父のことで落としたその肩にオルテュクスをのせたレトが、判決の間から出てゆく後姿を見送りながら、ハーデスは呟いた。
「ゼウスの沙汰は女次第」
ヘラ姉が、また嫉妬に狂わなければよいが、ハーデスはそう思いながら、次の被告を判決の間に招き入れたのだった。
<参考資料>
<(子が)ティターン神族第一世代>
母ガイア・父ウラノス
男神:オケアノス;コイオス;クレイオス;ヒュペリオン:イアペトス:クロノス
女神:テイア;レイア;テミス;ムネモシュネ;ポイベ;テテュス
母ガイア・父ポントス
男神:ネレウス;タウマス;ポルキュス
女神:ケト:エウリュビア
<(子が)ティターン神族第二世代>
母ポイベ・父コイオス
女神:レト;アステリア
母エウリュビア;父クレイオス
男神:アストライオス;パラース:ペルセス
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