スマイル¥0ラプソディー

asai

スマイル¥0ラプソディー

「スマイルはお一人につき一つまでとなっておりまーす!」

「すべてのお客様に行き渡るように、ご協力のほどよろしくお願いしまーす!」


お目当てのスマイルを求め、早朝からマクドナルドに並んでいた転売ヤーが開店と同時に一気に押しかけた。


微笑む転売ヤー達が店を後にする中、険しい顔をしたクルーが口に手を当てて叫んだ。


「スマイル完売しましたー!」




少子高齢化、老老介護、ワーキングプア、、、

日本を取り巻く問題は国民の精神を蝕んでいった。

国も政治家も頼りにならない。

解決しない問題に人々は疲弊し、日本から笑顔が失われていった。

繁華街でも、遊園地でも、誰一人として笑っている者はいなかった。


必然的にスマイルは希少価値を持ち、価格が高騰していった。


スマイルはタワマン高層階や永田町ばかりに集中し市場に出回らなかった。

しかしマクドナルドのクルーだけはスマイルの供給を絶やさなかった。


案の定、クルーのスマイルは、転売の的にされた。

メルカリには転売ヤーのモザイク写真が溢れた。

購入することでモザイクがとれ、笑顔を享受することができた。

本物よりも格段に質は悪かったものの、少しでも笑いたい人々は生活費を切り崩しそれを買った。


可愛いクルーから生まれたスマイルは高値で取引された。

それに気づいた他のクルー達がマクドナルドを介さずに個人で出品したが、そのどれもが、欲深く不気味な、質の低いスマイルとなった。


店頭での競争に負けた転売ヤーによって、

”苦笑い”、”愛想笑い”など模造品が大量に出品され、消費者生活センターには被害者が殺到した。


スマイルを巡り、日本は混迷を極めたのだった。


事態を重く見た日本マクドナルドは海外から歴戦のクルーを招集し、スマイルの緊急供給を図った。

ゆっくりと、ゆっくりと、スマイルは日本を明るくしていった。

高値で取引されていたスマイルは庶民でも手がとどく値段におちつき、スマイル転売ヤーはいなくなった。


スマイルとともに経済も回り始めた。


その様子を見て微笑んでいた政治家は国の財源になりうると確信し、

スマイルにも重い税金をかけるようになった。

日本から一斉にスマイルが消滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマイル¥0ラプソディー asai @asai3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ