第4話 『ブラックな職場の条件:横暴な上司』
──ふへぇ、何とかなった⋯。
ひとまず私は、ホッと一息をつく。
あの後、親切な警備員の方がスーツケースを寮まで運んでくれたおかげで、何とか遅れずに辿り着けた。
第一印象は大事、ってよく言われているし、流石に初日から遅刻は印象悪くなってしまう。それを回避できただけでも万々歳だ。
「んで、見せたいものって何だ?」
「ま、来てみてからのお楽しみだよ」
それにしても無愛想だこと。せっかく人が挨拶したのを鼻で笑ってきたし。今日からこの人と働くとなると不安しかない。
どうせ働くなら、所長って人との方が優しそうでいいなあ、と思ってしまう。
研究者のくせに白衣を着ていないところといい、どことなく飛び出したお腹といい、なんというか、近所の八百屋のおじさんみたいな優しい雰囲気がするのだ。
少なくとも、あの、いかにも偏屈で嫌味しか言わなそうな目つきの研究員の元で働くのよりかは何十倍もマシだろう。
こっちもスーツ姿ではあるものの、頑固そうな雰囲気までは隠しきれていない。
なんかもう、何か聞くたびに「ンなことも知らねーの」オーラ全開で対応されそうな未来が見える。
──そういえば、名前なんて言うんだろう。
いくら苦手な人だからといって、一緒に働く相手の名前を知らないのは失礼に当たるだろう。これが終わったら改めて自己紹介でもしようか。
そんなことを考える間に、所長はエレベーターの前に止まる。パスをかざすと、下階行きのボタンを押した。
「それと、このエレベーターの利用権限は君たちには与えられてないから、用があるときは私を通してくれるかね」
「利用権限⋯⋯?」
気になった言葉に聞き返すと、所長が丁寧に説明してくれる。
「ん、ああ。君たちのパスではこのエレベーターは起動できないってことだ。今は私のパスで起動してしまったから、戻った後にでも試してみるといいんじゃないかな」
「そうですか⋯⋯」
実際、この階に戻った後で所長に言われた通り自分のパスをかざしてみたのだが、ボタンを押してもエレベーターがやってくることはなかった。
多分なのだが、ホテルのVIPルーム行きエレベーターとかと同じ仕組みなんじゃないだろうか。
別に泊まったことがあるわけじゃないので、ここら辺は想像だが。
「あ、それと君たちの研究区画に入るときとか研究室のドアとか、パスないと入れないところが結構多いから。パスなくすと結構大変だからね、気をつけたほうがいい」
所長が苦々しそうな顔をしながら忠告してくれる。実際にやらかしたことがあるのだろうか。
「⋯⋯気をつけます」
「うん、それがいい。それじゃあ、乗って」
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