第17話 守りたいもの

早千と付き合い始めて1週間が過ぎた。特別に変わったところはないが、あえて挙げるなら早千が朝はもちろん、夕方を狙って来るようになったことくらいだろうか。ほら、噂をすれば…。


お店のドアが開いて、早千が入って来た。「お疲れ〜」と笑顔を浮かべながら入って来ただけなのに、可愛いと思ってしまう俺は、重症だ。いつものほわほわミルクたっぷりのカフェラテを作って、早千は席につく。「あと1時間くらいで終わるから、待っててな」というと、「うん」と言いながらいつもの席に座った。


そこは、俺のいる場所が見える席で、今では早千の指定席になっていた。少し前に会った時のイメージとのギャップに戸惑うことも増えた気がする。始めのうちは、すげぇクールで遊び人って感じだったのに、こんな健気なヤツだとは思わなかった。


バイトにも慣れて来た俺は、お客さんの中で男女問わず、顔見知りの人も増えて来て、よく話し込んだりするようになった。今日も、よく来る常連の人とレジをしながら、ドリンクを作りながら話し込んでいると、チクチクとした視線に気づいた。チラッとそちらを見ると早千がこっちを見てる。カフェラテを両手で持って、ひたすら見てる。


そのお客さんを接客していたら良い時間になったので、バイトを上がらせてもらった。帰る準備をして早千のいる席に向かうと、何も言わずにカフェラテを飲み続けている。中を見ると、ほとんど飲み干していた。


「早千、帰ろうか。」というと「…………」無言だったので、明らかに怒っていることがわかった。早千って本当にわかりやすい。笑ったり、怒ったり、泣いたり、感情がコロコロ変わるからおもしろかったりもする。「クスっ」思わず笑ってしまった。「何笑ってんだよ。」とむすっとした口調で言われた。


「ごめん。幸せだなって思ってさ。ホント…」と言いながら早千の目の前に腰を下ろす。頬杖をつきながら早千のことをじっと見つめていたら「見るな!」と顔を覆われた。俺は早千の腕をつかみゆっくり、テーブルの上に下ろす。「ヤキモチだろ?」と聞くと、「…違う」と小さな声でつぶやいた。


「嘘だね。お前って本当にわかりやすいよな。全部顔に出てるよ。」と言うと「違うって!」と小学生の子供のようにムキになるからますます笑えてきた。「そっか」だけ返すと、「他のヤツと話すの禁止だ。」早千は俺のことをチラッと見ながらぼそっとつぶやく。その表情も可愛くて、またイジワルをしたくなった。


「わかったよ。」と言いながら早千の方に顔を近づけて「笑ってても泣いてても怒ってても可愛いと思うのはお前だけだ。」と小声で言うと、プスーッと音が出るくらい早千の顔が赤く染まった。


早千はこれからどんな表情を俺に見せてくれるだろう。俺は、早千にどれくらいたくさん気持ちを伝えられるだろう。今考えても正直わからないけど、できるだけ多く一緒にいて、多くの時間を紡いで行こう。早千が自分の気持ちに素直で入れるように、早千が思い切って大好きを言えなかった分、俺は早千に大好きをたくさん伝えよう!


「じゃ、かえろっか?」と手を差し伸べると、早千はためらわず俺の手を掴んだ。この手の温もりを早千の笑顔を守って行こうと心に決めた瞬間だ。


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