第16話 お前は特別だ!

「ちょっと待って…」早千の力は思ったよりも強くて「…早千?」と問いかけていた。「座って。俺の話聞いてくれるか?」とつぶやいた早千の声は、まだ震えていた。俺は、早千が次の言葉を紡ぎ出すまで待った。


「…高校の時さ、俺窓際の席で、いっつも外ばっかり見てた。授業がつまらなかったのもあったけど、体育の時間、グラウンドで楽しそうにはしゃぎながらサッカーしてるヤツがいたんだ。そいつを見た瞬間、目が離せなくなった。それから、その時間が楽しみになって、そいつの姿を探すようになったんだ。」と嬉しそうに話す早千の笑顔はキラキラして見えた。


「ある日、そいつと目が合った途端、確信したよ。これは恋なんだって。いつの間にかそいつのこと好きになってた。でも…言えなかった。好きなんて言ったら嫌われる。嫌われるくらいならいっそのこと言わない方がマシだと思った。そのまま高校を卒業したけど、そいつのことが頭から離れなくて、色んなヤツと遊んだ。他に好きなヤツができたら忘れられるかなと思って…。そんな中、元カレと出会って付き合うことになった。」早千が1つ1つ丁寧に話してくれる。


過去の話を聞くと心の中がモヤモヤするけど、話してくれる事が嬉しくて、本当にコイツのことが好きなんだと思った。


「でも…最近、そいつと再会したんだ。」…それは、初耳だぞ。一瞬息を飲んだ。


「その途端、忘れてたはずの気持ちが蘇って…。俺は、今もそいつのことが好き…必死に隠そうとしたけど、隠しきれなくて…俺がゲイって話した時も本当は怖かった。嫌われるんじゃないかって怖くて怖くてどうしよもなかった…でも、そいつは受け入れてくれて…やっぱ、俺ソイツのことが本当に好きなんだって心底思った。だから…」



「ちょ、ちょっと待て!」俺は言葉の節々に疑問を感じて早千の話を遮った。



「ちょっとごめん。それって…誰?その…ソイツとは…」と問いかけるとすかさず「…お前だよ。」その言葉を聞いた瞬間、時が止まった。「あの…今、俺って言った?」何かの聞き間違いかと思って、再度問い返すと「だから!お前だって言ってるだろ!どこまで鈍感なんだよ!」と何故か逆ギレされた。


あまりの驚きに笑いが込み上げてくる。確かにびっくりしたけど、正直嬉しい。逆ギレをした後に、まるでゆでダコのように拗ねる早千の姿を見て、「…ほんとっ」と言いながら強く抱きしめていた。


早千は、驚いた様子で手を広げたまま固まっている。「何だよ。ハグ…仕返してくれないのか?」というと恐る恐る、緊張したように俺の背中を抱きしめた。「まさか、両思いだったとわな。」と笑いながら話すと「…嘘…じゃないよね?」とか細い声でつぶやくから。


次の瞬間…軽くキスをして、優しく「嘘じゃないよ。」とどこかの少女漫画のような口調で早千を見つめてみた。早千の顔がみるみる赤くなる。それはまるで…「ゆでダコみたいに真っ赤…」思わず本音が口からこぼれ出てしまう。「ゆでダコって…ひどい。」と今度は涙を浮かべて泣き出す。


「忙しいヤツだな。早千ってそんなに感情の起伏が激しかったっけ?なんかポーカーフェイスなイメージだけど。」と言うと、今度は子供のように抱きつきながら「平良だからだ!」とちょっと拗ねたような口調で言われた。



「じゃぁ、俺は特別ってことか?」と言うと、「調子に乗るな。」と返されたけど、その腕の力が一瞬強くなったような気がして嬉しかったんだ。

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