第12話 初めて気づく本当の思い

数日の間、早千と顔を合わせていない。ラインをしても、うまい具合にはぐらかされてまともに連絡もとっていない状況だ。


部屋が隣なのにも関わらず、こうまで会わないのはおかしい。もしかして、意図的に避けられているのではと思った。『連絡もよこさないってどういうことだ!』ムカつくというより、何故か純粋に気になった。


なんだかんだで2週間、早千との連絡がつかず、まともに顔を合わせていない期間が続いた。バイトが終わって携帯を見ながらラインをするかしないか悩みながらマンションに着き、エレベーターに乗り込む。自分の部屋がある階を押し、エレベーターが目的の階に着いた。


俺の目の前には、早千とサラリーマン風の男性の姿が飛び込んで来た。思わず「あっ…」という声が漏れたと同時に立ち止まってしまった。


サラリーマンの男性が俺に気づく。「あっ、もしかして君が天野平良くんかな。」鼻につく喋り方のサラリーマン男が俺に話しかけてくる。「はー、でも何で俺のこと?」というとその男は、ちらりと早千の方を見て目配せをした。気に食わない。


「君のことは、早千から聞いたよ。君が隣に引っ越して来てから早千の雰囲気が変わってね。冷めたというよりも心ここに在らずみたいな雰囲気で…」何で俺はこんなことを聞かされているんだ。という疑問が頭を過る。


「早千が、俺と別れたいと言い出した時、ピンと来たよ。早千は、君に恋してるんじゃないかってね。カフェのバリスタ見習いのヤツに負けるなんて…」と嫌みをいうように俺に攻撃してくる。


「やめろ。いい加減にしろよ!湊」と言いながら早千が湊とかいうサラリーマンを止めようとする。「うるさい!」と早千の手を払いのけたサラリーマンに対して、怒りが込み上げた。


「あんた、大人げないよ。あんたにもあんたの思いがあるのと同じように、早千にも早千の考えや気持ちがあるんだよ。早千が劣ってるような言い方して、例え別れたとしても、愛した人にそんな風に接するなんて男としてありえないよ!」と言うと、「もう終わったことだ。俺は帰るよ。」サラリーマン風の男、湊は俺の言葉を無視して帰ろうとする。


「ちょ…」と言うと早千から止められた。「いいよ。彼の言う通り終わったことだ。」しかし、俺はその間も他のことが気になっていた。それは、さっきサラリーマン風の男が言った言葉だ。


『早千は、君に恋してるんじゃないかってね。カフェのバリスタ見習いのヤツに負けるなんて…』


早千に直接聞こうと思った。「なー、早千さっきのって…」と話を切り出そうとした途端、早千は何も言わずに自分の部屋に入ってドアをバタンと閉めた。俺は、呆気にとられてその場から動くことができなかった。


少し時間が経って、我に返って早千の部屋のドアを叩く。「何で無視するんだ。あからさまに避けてるだろ?俺、何か無視されるようなこと言ったか?ただ疑問に思ったから聞きたかっただけなのに…俺は、お前が何考えてるかわからないよ。」本音だった。


いくらドアを叩いても呼び鈴を鳴らしても、早千からの反応はなかった。その時気づいたんだ。俺が…早千に友達以上の気持ちを抱いているかもしれないということに。

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