第11話 一番鈍感なヤツは俺!

「…マジで…」俺は思わず言葉を失った。「とりあえず、考えてみて!」と言って花が席を立ち上がり、カフェを後にした。俺は、少しの間その場から動くことができなかった。


俺はバイトの帰り道、早千にラインを送った。

『今、電話できる?』と送ると『うん。』とだけ返信が来た。俺は、すぐに早千の携帯に電話をかける。「もしもし…」と電話越しに早千の声が聞こえた。


「今日はごめんな。友達が変なこと言って…。」と言うと「……ううん。全然大丈夫!気にしてないよ。バイトは終わったの?」と尋ねられたから「あー。」と答えると「お疲れさま。」と言って笑った。


その声がどこか切ないような寂しいような気持ちを感じたんだ。


後日、俺はバイトの休みを利用して冬和に相談をしに行った。

そしたら、意外な反応が帰って来た。


「あいつやっと言ったのか…。」冬和のその言葉に俺は呆気に取られたのだ。「えっ、ちょ、話が見えない。どういうこと?」と問うと、「お前ってさ、鋭い所は鋭いけど、鈍感な所は本当に鈍感だよな。花の気持ち気づかなかったの?」と言われて、素直にうなづいた。


「あいつさ、会った時からお前のことが好きだったんだぞ。そばにいたくて、友達として接して来たんだろ。でも、涼風が現れて、アイツなりの勘が働いてさ。危機感っていうか、誰かに獲られるんじゃないかっていう思いを感じたんじゃないかな。やり方は間違ってるけど、アイツなりに焦ってたんだよ。きっと…」という冬和の横顔がどこか切ない感じがした。


「でも…焦る必要って?」というと「本当に鈍感すぎだぞ。お前!」と怒られた。「女の勘って意外に侮れないぞ。会うたびに、恋愛相談される俺の身にもなって欲しいよ。全く!」と冗談まじりに言っていたが、冬和の心がしんどいと感じているようだった。


「お前は自分で気づくべきだよ。自分の気持ちにも、相手の気持ちにもな。」意味深な言葉を放った冬和。俺は言葉が出て来なかった。


少し考えていると、然程遠くない距離に早千の姿を見つけた。明らかに目が合ったから、手を振ると驚いた様子で、目をそらしてそのまま足早に去って行った。『なんだよ。アイツ…また無視しやがって…。』気になる思いとモヤモヤした気持ちがまたフツフツと湧き上がっていた。


花が、出会った時から俺のことが好きで、自分の気持ちを隠して友達と接してくれていたこと。あの時は、確かに驚いたけど、自分の思いをぶつけてくれたこと。そんな俺の相談を聞いてくれる冬和の存在。改めて良い友達を持ったと思った。


それと同時に、自分は人の表情や気持ちの変化に気づく方で、友達の心情もわかってるつもりでいた。でも、冬和の話を聞いて、情けなくなった。誰よりも俺が鈍感で、無神経な奴だったのだ。


俺は決めた。ちゃんと花と冬和と向き合おう。…そして、自分の気持ちとも…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る