第9話 不意に芽生えた想い

週末を迎えて、俺は花が勤めている美容室も参加するショーにモデルとして参加していた。朝8時に会場入りして、俺を担当してくれる花の先輩である美容師さんに挨拶をする。


「初めまして。天野平良と申します。よろしくお願いします。」と言うと「こちらこそ。急に無理言ってすいません。花ちゃんに聞いたら適任がいるっていうことだったので、無理矢理頼んじゃったけど、大丈夫でした?」と気を遣ってくれる。


俺が「はい、全然大丈夫です。予定もなかったし。」と笑うと、「天野さんめちゃめちゃ良い人ですね。モテるでしょ?」と言われた。


「全然ですよ。彼女もいないから焦ってます。」と冗談まじりに返した。「花ちゃんとお似合いじゃない?」と言われたところに花が飛んで来て「何言ってるんですか〜!!」と全力で否定された。それはそれで、悲しいものだ。


挨拶を交わした後は、衣装に着替えて、リハーサルが始まる。舞台上での動きなどを説明されるのだが、初めてということもあり、覚えるのに必死だ。


それが終わったら、ヘアセットやメイクが始まる。


もともとの黒髪を活かした少し大人のヘアスタイルが出来上がった。美容院に行こうと思ってたから正直、助かった。出来上がったヘアスタイルを自撮りして、早千に送った。


『ショーモデル緊張するけど頑張ってくるよ!』というメッセージと、さっき撮った自撮り写真を貼付けて送信っと。


少し経ってから返信が来た。『かっこいいじゃん!頑張ってね!』というシンプルな内容だった。でもおかげで、緊張感が少し和らいだ気がする。『ありがとう』とお礼を言って、本番に向かった。


次の日の夕方、花と冬和、そして花が勤めている美容室の先輩がカフェに来てくれた。この前ショーのモデルを務めたその人。「昨日はありがとうございました。」とわざわざお礼を言いに来てくれたのだ。


「全然です。わざわざありがとうございます。」と言うと「花ちゃんからバリスタの夢に向かって頑張ってるんだって聞いてさ。ホットカフェラテもらえるかな?花ちゃんと冬和くんも好きなの頼みな。」とても気さくな人だ。


花はキャラメルマキアート、冬和はカフェモカを頼んで、3人で一緒に同じ席に着く。俺は、注文を受けてオーダーを作るために後ろを向く。すると、少ししたら後ろでカフェのドアが開く音がした。「おっ、早千じゃねぇか。」というマスターの声に後ろを振り返ると早千の姿がそこにあった。


「いつものホットラテでいい?」とマスターが早千のオーダーを聞く。すると、早千が何やらマスターに耳打ちしている光景を目撃した。『何なんだ?』と疑問に思っていると、マスターが俺の所に来て…「待つから平良に作ってほしいんだって。モテモテだなぁ〜」とにやけながら去って行った。


『普通に言えばいいのに…変なヤツ』ふとそう思った。


最初に、花の先輩と花、冬和の分を作り終えて、席まで運ぶ。すると「あれって、涼風早千でしょ?お前らいつの間に話すようになったの?」と冬和に言われた。


「まぁ、お隣さんだしね〜」と言うと「誰?」と花が言うから、「俺らの高校の時の同級生でマンションの隣人」とだけ話して、冬和後は頼むという思いで仕事に戻った。


早千からのオーダーであるホットラテを作って早千に手渡す。


「お待たせ!ごめんな。遅くなって。急に友達が来てさ、オーダーが詰まってた。」と言うと「全然。俺も急に来たから…。」と言いながら何か言いたそうにしている。


「どした?」と尋ねると、小さい声で「…今日さ、ごはん一緒にどう?」と聞かれたから「うん。大丈夫だよ。でも、悪いな。頻繁にお邪魔しちゃって。」と返す。早千は、「ううん。1人より2人で食べた方がごはん美味しいじゃん。それに、平良とご飯食べるの楽しいし。」と笑った。


俺はまたしても…可愛いと思ってしまったのだ。この時ばかりは、何となくこの気持ちが何なのか、気づいてしまった自分がいた。

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