第7話 小さな高鳴り
俺と早千は、あれから、まるで前から親友だったみたいに仲良くなった。
朝は、ホットラテを買いに立ち寄ることが日課になって、時々俺の営業後の練習に付き合ってくれるようにもなっていた。早千の部屋でごはんをごちそうになることも増え、早千の料理上手っぷりに驚くばかりだ。
お隣さんということもあるが、高校の同級生であることが大きい気がする。
今では気軽に何でも話すようになった。ある日、俺がこんな質問を投げかける。
「あっ、最近彼氏さんとはどうなの?うまくいってる?」ただ何となく聞いただけだった。「…あー、実は、別れたんだ。」と小声で呟く。
「えっ、あっ、ゴメン。俺デリカシーのないこと聞いたよな?」と焦ってしまった。失恋した友達に、無神経なことを聞いてしまった罪悪感が湧く。早千は、大丈夫だと言っていたが、失恋はとても苦しい。ここで、俺の悪いクセが顔を出す。
『理由が知りたい…』という気持ちがフツフツと湧き出てきたのだ。
「……不快な思いさせたらごめん。何で別れたの?」単純に気になったというのが本音だ。
「特に、理由はないけど…あえて言うなら気持ちが冷めた。って感じかな…」と早千が苦笑いを浮かべる。何故苦笑いを浮かべたのかはわからない。でも、早千が振った側だとしても、苦しい選択をしたことには変わりなかった。
「ビールでも飲むか?」と提案すると、「いいね」と言ってビールを2本持って来てくれた。俺たちは、色々な話を交わしながら、明日が休みなのをいいことに、1本、また1本と空き缶の数を着実に増やしていった。
俺は、窓から差し込む光で目を覚ました。どうやらビールを飲んで、散々色々なことを話して、そのまま眠ってしまったようだ。腕の重さに目を覚ますと、俺の横で早千が眠っていた。
『こいつも色々苦労してんだな。』その瞬間、3年前の記憶が蘇る。
あの時窓の外を見ていた早千の横顔は、不思議な雰囲気を醸し出してた。何かを抱えたような…言葉では表現出来ない。何かを…。確か、その頃からだって言ってたな。好きな奴ができて、自分がゲイであることを受け入れられるようになったのって。
『誰なんだろう?コイツが好きだった奴って…』俺は、無意識のうちにそんなことを考えていた。俺の横で小さく寝息を立てる早千が一瞬きれいに見えた気がした。まあ、整った顔立ちだし、女にも男にもモテるんだろうな。そう思いながら、早千の顔を眺めていると、まぶたがゆっくり開いていることに気づく。
俺が「おはよう。」というと早千の目はみるみる内に大きくなって、「ごめん!」と言って急いで起き上がる。俺は、その勢いに驚いて言葉が出なかった。
「何でごめん?」そう呟くと、「…お、重かったでしょ?俺の頭」と笑うから、「軽かったと言えば嘘になるが…全然平気だよ。」と笑い返す。「酒飲んで、いつのまにか寝ちゃってたんだな。俺の方こそごめんな。泊まる形になっちゃって…。」と言うと、大きくブンブンと音が鳴るくらい首を横に振った。
「俺、部屋に戻ってシャワー浴びてくるわ。後で一緒に片付けよっ。早千もシャワー浴びてきたら?」と言って、俺は部屋に戻って急いでシャワーを浴びた。シャワーを早々に切り上げて、部屋にあるコーヒーマシーンで、早千が飲んでるいつものホットラテを作る。いつもごちそうになっているお礼のつもりだ。
出来上がったホットラテを持って、また早千の部屋の呼び鈴を鳴らす。
奥の方から「はーい」と声がして、ドアが開くとそこには、シャワーから上がったばかりの早千が目の前にいた。髪は濡れていて、少し大きめの白シャツを着ている。「早かったね。」と言われて、我に返った。
「…あっ、あー。シャワー即効浴びて、コレ作ってた!ジャーン!」と言いながらおどけて作ったホットラテを見せると、「わぁー!ありがとう!」と言って、早千がマグカップを両手で受け取った。その姿を見て、ほんの少し…。
「かわいい」と思った自分がいた。
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