第6話 うまい!チキンカレー

あれから朝のシフトに入ると早千の姿を毎回見かけるようになった。早千が大きな勇気を持って、自分のプライベートな部分を話してくれたことで、俺らの距離は縮まった。高校の時は、ほとんど…というか全く話したことがなかった。


ましてや3年前、窓際で遠くの方を見ながらボーッとしていた奴の名前も知らなかったほどだ。まさか、お隣さんになるとはな。世界は、思ったより狭いことを思い知らされる。


最初は、ツンツンしてて取っ付きにくい奴だと思ってたし、嘘をつかれた時は、ムカッとしたけど事情を聞いたら納得できた。同性愛に対して、偏見を持つ人たちがまだまだ多い世の中だ。実際、早千とサラリーマン風の男が抱き合って、キスしていた姿を見かけた時は、時間が止まったようだった。


でも、潔く「俺はゲイだよ」と言い切る早千の姿を見たら、自然に納得できた。俺にとっては、特別なことでも早千にとっては普通のことなんだ。俺が女の子と恋愛するのと同じように…。好きになった相手がたまたま男性であっただけ、それだけなんだ。


そう思ったら、何の違和感も感じられなかった。むしろ、申し訳ないと思った。あの日をきっかけに早千の印象が360度変わったんだ。


カフェのバイトが終わって、店内でバリスタの勉強をしていた時俺の携帯が鳴った。


「早千からだ。何だろう?」と言いながら携帯のLINEアプリを開く。

『平良、お疲れ。もしかしてメシ食った?もしまだだったら一緒にどうかなって思ってさ。作りすぎた笑』という内容だった。


ラッキーと思いながら、早千に返信をする。『お疲れ〜、メシまだだよ。今カフェで勉強してて、15分くらい後に行ってもいいかな?』と送ると、すぐに『オッケ!』とだけ返事が来た。マメなのか淡白なのか…。思わず笑みがこぼれた。俺は、少しだけ勉強を進め、マンションへと向かった。


マンションに到着して、エレベータを上がる。俺の腹が正直に大きく鳴ったのがわっかる。「腹減った〜」早千と俺の部屋のある階に辿り着いて、同じ階の隣の部屋の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。「はーい」と声がしたから、「俺、平良だけど」と言うと、ドアがゆっくり開く。


「とにかく入って。もう食べれるから。」と早千が部屋の中に招いてくれた。リビングに入ると美味しそうな匂いと共に、机の上にはサラダやスープが用意されていた。


「カレーをさ。作ったんだけど、多く作りすぎちゃって。」と言いながらキッチンへ向かう。「早千って料理できるんだな。」素直にそう思った。「まあね。たまに作りたくなるんだ。お皿ここにあるからご飯とカレー好きなだけ盛りつけて。」と俺をキッチンに呼ぶ。


ソファに荷物を置いて、キッチンへ向かった。カレーとごはんをたっぷり盛りつけて、重くなったお皿を両手で持ちながらテーブルにカレーを置き、腰掛ける。俺は「いただきます!」と言ってカレーを食べ始める。


辛すぎず甘すぎず、まろやかな味わいのチキンカラーだった。「うま!!!」と大きな声が出た。本当にうまかったから。「マジで?」と早千が聞き返すから、「あー、俺の母さんのカレーよりうまいかも。」と言うと、「そっか。よかった。」と言いながら早千が安堵の表情を浮かべる。


その様子が、柔らかくて胸の奥が、フワッと浮くような感覚を感じた。

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