第2話 バイト先での再会。

今日は朝からカフェでのバイトが入っている。個人経営のお店で働かせてもらっているのだが、マスターも気さくでとても良い人だ。


平良たいら、引っ越しの方はどうだ?片付いたか?」とマスターに聞かれた。

「はい。一通り片付け終わりましたけど、足りない物とか買わなきゃいけなくて。」と返す。


「何が足りないか言ってみろ。もしここにあるものなら分けてやるよ。」と言ってくれた。俺は「ありがとうございます。」と素直にお礼を言った次の瞬間、お店のドアが開く音がした。


「いらっしゃいませ」と言いながら振り向くとアイツがいたのだ。


お互いに目が合い、「「あっ!」」という声が同時に出る。「どーも。」俺がぎこちなく挨拶をすると「どーも。」と返ってきた。「あっ、ご注文は?」この空気が耐えられず、仕事に集中しようと決めた。


「天野さん、ここで働いてるんですね。」とソイツが突然、こう切り出した。「…そうなんですよ。俺、バリスタになりたくてここで勉強がてらバイトしてるんです。」と多めに答えてしまう。


そこへ、「おっ!早千じゃねぇか?今から学校か?」とマスター。「あれ、マスター知り合いの方ですか?」気になって質問すると、「知り合いっていうか…毎日カフェに来てくれる常連くんだよ。」とマスター。


マスターは、「いつものでいいよな?」とだけ言って、ミルクフォーム多めのカフェラテを作り始める。


俺、天野あまの平良たいらは、バイトを始めてまだ1ヶ月くらいしか経っておらず、遠くから通っていたこともあり、朝のシフトに入るのはこれが初めて。そういう理由からなかなか会う機会がなかったようだ。


「大学生なんですか?何年生ですか?」と質問をすると「3年」と短く答える。「じゃあ、21歳ですか?」「そう。」どこか単調な会話のやり取りだったが、何故かわからないけど、不思議と楽しかった。


「あっ、そういえばまだ名前聞いてなかったですよね?」マスターは後ろでカフェラテを作っている。「涼風すずかぜ早千さち。よろしく。」どこか上から目線で強い口調がコイツの特徴のようだ。「こちらこそよろしく。」と自己紹介をしている間にマスターがカフェラテを持って来てくれた。


「ありがとうございます。」とマスターからカフェラテを受け取るとそそくさと店を後にする。「なんか不思議な人ですね。」と言ったら、マスターは「そだな。不思議な奴だけど、根はいい奴だぞ。」と笑われた。俺の中では、正直、腑に落ちない。


モヤモヤを抱えたままとりあえず仕事をすることにした。


17時になり、バイトが終わる。「ちょっとお店で勉強してもいいですか?」とマスターに声をかけると、「いいよ。」と言ってくれたので、自分でカフェラテを作って邪魔にならない席を確保しながら勉強に打ち込んだ。


勉強している最中も、アイツのことが胸の奥に引っ掛かったままだった。

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