大好きなんて言えなくて

@rainbow-baby

第1話 引っ越しの日

体育の授業中。いつも空を見上げるとある教室の窓が目に入る。そこには、授業中にも関わらず、外を見てボーッとしている奴がいた。眼鏡をかけた一見真面目そうに見える不思議な奴だった。



あれから3年…


俺は21歳になり、都内のカフェでバイトをしながらバリスタになるための勉強をしている。今日は、念願の引っ越しの日だ。


「ご苦労様でーす!」引っ越し業者のトラックを見送り、部屋に戻る。友達のはな冬和とうわが手伝いに来てくれたおかげで、思ったよりも早く運び終わった。時計を見ると、ちょうど昼時だ。


「出前のそばでも頼もっか?俺が奢るよ。」そう言うと声を揃えて「やったー!!」と歓声が上がる。「あっ、でも代わりに頼んどいてもらえる?俺、両隣に挨拶しに行ってくるわ。」と言うと、「お前って意外と律儀なんだね。」とチャカされた。


「うるせぇわ。出前が来そうになったら連絡ちょうだい。」とだけ言い残し、買っておいた菓子折りを持って部屋を出る。



右隣は気さくなおばさんだった。丁寧に挨拶をし、「失礼します。」と言って部屋を後にする。次は、左隣だ。呼び鈴を鳴らして、出て来るのを待った。しかし、反応がない。『まぁ、今の時間帯だとほとんどの人は仕事中だから仕方ねぇか。』と思ったが、もう一度鳴らして出て来なかったら日を改めようと決めた。


諦めて帰ろうとした時、ゆっくりとドアが開き、中から人が現れた。「すみません。突然。俺、今日隣に引っ越して来た天野あまの 平良たいらと申します。ご挨拶に…」と言って顔を見上げた瞬間、俺は目を疑った。


なぜなら、目の前にいたのは、3年前に教室の窓から外をボーッと眺めていたアイツだったからだ。一瞬、時が止まった。


「どーも。ご丁寧に。あれ?どうかしました?」眠そうなその声で、自分が止まっていたことに気づかされた。「…あ、あの…つかぬ事をお伺いしますが…もうしかして…桜花学園高校とかに通ってたりしませんでしたか?」次の瞬間、その人が何とも言えない表情に変わった。


「あーーー!!すいません。人違いだったらごめんなさい。なんか高校の時、窓の外ばっか見てる奴がいて、そいつに似てたからもしかしたらそうかなって…」と苦笑いをすると、「…人違いじゃないですか?」と返された。


「…そ、そうですよね。すいませんでした。失礼します。」と言ったが、自分の中では腑に落ちなかった。俺は、一度会った人の顔は忘れたことがないし、特に印象的だったから雰囲気でなんとなくわかる。『ま、そういうこともあるか』と自分を納得させながら部屋に戻った。



花も冬和も帰って、俺は一人で部屋の片づけをし、23時頃にやっと一通り整理し終わった。「足りない物は、明日バイトの帰りにでも買ってくるか…。」…にしても、左隣のやつの顔が頭から離れない。心の奥に何か引っ掛かている感じがした。

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