ハム

夢美瑠瑠

ハム



小説・『ハム』




ハムスターのハムは、いつも、ママと二人で、


小さいカゴの中に住んでいました。


ママはやさしくて、ミルクのように甘い匂いがしました。


小さいカゴの中で、


二人で若草の香りがする藁(わら)を敷き詰めた寝床にくるまっていると、


いつまでもこうしていたい、ハムは素直な気持ちでそう思うのでした。


カゴは高いマンションの一室にあって、ハムとママは、


そのマンションの住人に飼われていて、飼い主も、


優しい、綺麗な、若い女の人でした。


「さあ、フードを食べた後はリンゴとスイカのデザートですよ。


おあがりなさい。」


ハムスターは果物が大好きです。


ハムはおなかがいっぱいになるまでいつもおいしいデザートを


頬張るのでした。


「ハム、太ってきたよ。回し車で運動しないとね。」


ママが言います。


ハムは、回し車をたくさん回して、存分に運動をして、


それからまたたくさん眠るのでした・・・


・・・ ・・・


(ハム・・・ハム・・・?聴こえますか?


私の声が聴こえますか?・・・)


(誰?)


(私はユキ。あなたのおうちの窓から見える、


池の中州の小島に住んでいる野ネズミの女の子です。


私はあなたに会いたい。


池を泳いで小島まで私に会いに来て・・・)


(ええっ?どうしたらいけるんだろう?


ぼくはこのカゴから出たことが無いんだけど・・・)


(飼い主のお姉さんの隙(すき)を盗んで逃げればいいのよ。


エサを替える時とか・・・寝床を掃除するときとか・・・


私が「今よっ!」って教えてあげるから・・・)


(うん、わかったよ)


・・・ ・・・


不思議な夢でした。


ハムはでも、その夢が本当のことだというのが何となく


分かりました。それで、その次にお姉さんがフードをくれに来る時を狙って、


カゴの出口から、思い切ってしゅるしゅると脱出しました!


「今よっ!」というユキの声もしたような気がしました。


「あっ!こら!ハム!逃げちゃダメじゃない!」


お姉さんは慌てましたが、もう後の祭りで、ハムはどんどんメクラめっぽうに


外へと逃げていきました。


たまたまドアも開いていて、廊下から階段に出られました。


ハムスターもネズミの一族だから、俊敏な時は俊敏です。


ハムは3分もしない間にたちまちマンションの外へ出ていきました。


マンションの外の白っぽい道路のその先に池があって、「ユキ」という子の


声がする中州の緑色の小島が、池の真ん中にあるのが見えています。


「よく分からないけど・・・とにかくあっちに行ってみようか」


ハムはざんぶと池に飛び込んで、がむしゃらに泳いでいきました。


そこは男の子で、


覚悟を決めて腹が座ったら、どんどん目標に向かって邁進(まいしん)するのです。


どんどん泳いでいって、池なんて泳いだことがないから、


だんだん池の水が怪物みたいに思えてきました。


でも負けるわけにはいかないから、頑張って泳いでいるうちに


だんだん泳ぐコツが分かってきて、少し楽な感じになりました。


そうして体力が尽きそうになったその刹那に、


やっとその中州、緑の小島に泳ぎ着きました。


小島は、夏の植物の香りがする、素敵なところでした。


(ハム、ハム、こっちよ。こっちにおいで)


また不思議な声がしてきて、ハムは導かれるままに歩いていきました。


歩いて行った先には、「ユキ」が待っていました。


ユキは純白の、輝くように美しい美ネズミでした。


「おめでとう。ハム。ここまで来られたのね。あなたに相応しいご褒美、


それは私です。あなたは女の子ってものを知らないんでしょう?」


そう言って、ユキはとろけるようなセクシーな目つきで、ハムを見ました。


「えっ?えーと、僕はこんなにかわいいネズミは見たことがないけど・・・」


「いいのよ。私が教えてあげるから・・・二人でいいことしましょ♡」


ユキの可愛い顔が近づいてきて・・・ユキとハムはキスをしました。


お母さん・・・お母さんはきっと心配しているだろうな・・・


だけどこんなにかわいいこの子がいる、ここがきっと僕がいるべき場所なんだ・・・


ハムはそう考えて、夢をかなえてくれた、


ユキの夢のように柔らかくて匂いやかな純白の羽毛の中に、


全身を埋めこませていくのでした・・・



<終>

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ハム 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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