2020年・良哉・伝えるべき事、複雑だけど。



 その、「過去の自分」が書いた手紙を手にしたとき。


  僕は、この手紙を、君に見せるべき手紙だと思ったものの。


 どうしていいかが分からなかった。


 どんな顔でこの手紙を君に見せたらいいのか。そして、この100年近く前から起こっていた壮大なる運命をどうするべきなのか。


 分からなかった・・。


 それだけではなく。


 とても、若い君は、運命に忠実に生きようとすると思ったから。


 それだけで、僕を選んで欲しく無かったのだ。


  同じ16歳と24歳でも、宏俊とれい子が生きていた時代と、僕と、礼子が生きている現代は違う。


 子供扱いをするなと怒られそうだけれど。


 君は、まだまだ16歳。高校一年生。


 僕だって、君の事を言えるほど大人じゃないけど。(僕は今年24歳独身!!)


 高校に入ったばかりの君は、何もかもがこれからだ。


 たくさん恋愛をして、仕事もして。少なくとも、今の僕と同じレベルに、いろいろと価値観を育てて。


 その上で。


 その運命を受け入れるか。受け入れないか。二つの選択がある中で。


 運命に左右されない、君の意志で、、僕を選んで欲しい。




「・・・・・・・こんな突き放すような事をして、ごめん。」



 僕は、本当にダメだ。突き放して、また目の前に現れて。


 君と、運命を、いったん突き放すという覚悟で判断し、郵送で君の家にそれらを送ったものの、そろそろ、君の家に僕が送った手紙と写真が届くと思うと居てもたっても居られず、僕は君の家に来た。ちょうど君が涙を流して、並木道に立っていた。僕は君を引っ張り、近くのカフェに入った。


 そして、伝えた。


 自分の思いを。


「・・・・・・僕が、どうしたいか、ちゃんと伝えようと思って。」


礼子は下をむいたまま、僕が渡した、抹茶フラペチーノを両手で包み込み、僕の話を聞いていた。


「・・・・僕は、宏俊として生きていた頃、君がぶつけてくれた事に応えるだけだった。君が手紙をくれたから返事を返すだけだったし。・・・・・君が結婚したいという要望を言われて応えるだけだったから・・・。何一つ、僕からどうしたい、って君に言えなかったから。その・・・。」


 礼子が僕を見る。初めて見てくれた、と思った。礼子はこんな顔をしていたのか。目がかすかに潤んでいた。


「手紙には書いてないけど、ずっと後悔していた。」


 僕は言った。これは本当だった。


「だから、もう後悔はしたくない。」


「だから。」


 もし。


 君が大人になったら。


 もう一度、この運命をどうするか。決めて欲しい。


 今度は、僕が、待ってるから。


「・・・今は、受け入れられないと言う事ですか?。私が子供だから。」


やっと、礼子が口を聞いてくれた。 


「だから。先ほど話したでしょ。君と、今の僕じゃ、ダメだって!。大体、僕は営業で、君はお客さんの家族だし!。そういう恋愛は禁止なの。大体18歳以下の女性に手を出したら僕、犯罪者になるし。」


ああ・・・そういえば、カフェで二人でお茶をするだけでもこの子の親が訴えたら犯罪になるのだろうか。今更現実時代の問題を思い出して、僕は、真っ青になった。


「心の声、漏れてますよ。訴えられないとは思うけど・・・そういう問題ですか?。」


「それだけじゃないよ。・・・だから、今話したでしょ。」


 僕は、声を潜めて言った。


 本心は。もっと傍に、君を置いて置きたい。


 もっと声が聞きたい、顔が見たい。


 礼子を目の前にして。確実に、僕の中で芽生えている感情があった。


 僕は、密かに。この運命がいつか実りますように。そう願わずにはいられなかった。



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