2020年・礼子・良哉さんの気持ちは・・・



 毎日スマホをチェックして、良哉さんの連絡を待っていたのに、連絡が来ないまま、学校が始まった頃、それは、私のもとに届いた。


 どうして住所を知っているのか・・・と一瞬疑問に思ったが、祖母の入っていた保険の手続きで、春ごろに、良哉さんがこの家に来た事を思い出した。


 受け取ったのが、私だけが家にいる時で良かった。(姉や母がいる時だったら詮索されたら面倒くさい!)


 誰もいないうちにと、私は光の速さで届いたものを持って、自室にこもった。


 あけてみると、件の着物が入っていた。それと私が良哉さんに渡した。写真。

何も手がかりは無かったのか・・・。と思ったが、もう一つ。手紙が入っていた。


「れいこへ」と書いてあった。一瞬自分の名前・・?。とどきりとした。でも、差出人は、高野宏俊さんという名前で、日付は昭和になっていた。


 一緒に、あなたの思い出だと思うので、どうぞお持ちください。と、いうメモが入っていた。


 それを読んだ時。


 とめどなく涙が溢れている事に、読み終わるまで、気づかなかった。


『もし。今は、そうじゃなくても。どこか、いつか遠い所でまた会える。その時は、これを持って。あなたの目の前に現れてもいいですか。』


 私が、昔から、どこかで誰かに、いつか言うべきだと思っていた言葉が。


この手紙に並んでいた。


 確かに、その言葉を、昔、私は口にした。


 どうして、一目みて、良哉さんを好きになってしまったのか、初めてあった気がしなかったのは、それは懐かしかったからだ。


 それは、良哉さんがかっこよかったとかではなく、昔から決まっていた事だったのだ。


 だけど。


 良哉さんが、なぜ、郵送で。


私に会わない方法で、これを渡したのか。


 その事実に、私はとても傷ついていた。


 あんなに、時間を、時空をかけて。逢えたのに。


宏俊さんは、その時は、ずっと一緒にいようと言ってくれたのに。


宏俊さんが人生を終え、そして現代を、新しく生きている良哉さんは違う。


  

 母と、姉が帰ってくる音がした。「どこいくの~?。」という姉の言葉を無視して、私は送られてきたそれらを押し入れに隠すと、買い物、とだけ言って玄関を突っ切って外に出た。


 ひとりになりたかった。


 マンションの傍の、並木道の風景が、ぼやけて見えた。すっかり九月の秋の空はもうすぐ六時だと言うのに、傾きかけた太陽がまだ眩しい。空は気持ち優しい色合いになったけれど。


 心が潰れそうな時、私はいつもここに行く。


 そんな私に、誰かが近づいて来ていた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る