昭和から、現代へ。「手紙」
この手紙は、祖母がこの家に引っ越してきたばかりの頃、当時2歳の僕が、この家のどこからか出してきたそうだ。すっかり痴呆が進んでいる祖母の目を見た。祖母はまだしっかりしている部分もある。たぶん事実なのだろう。
その封筒には「れい子へ」
とだけ、書いてあった。僕は、祖母にお礼をいい、封筒を開けた。
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れいこ
生きてきた中で、一番、君を愛していた。
君は最期まで弱音を吐かなかったから。
君がどんな気持ちで、人より短い運命を受け入れたのか。僕には分からなかった。
君がいなくなって。
一度だけ、身体を重ね、誰よりも距離を縮めた僕たちの関係は、誰よりも遠くなった。それならば。
あのまま君を抱かなければ良かった。
なぜ初めて会った日。手紙をくれたのか。そして、僕の心を置き去りいして、なぜ逝ってしまったのか。
こんな苦しみをくれた、君を恨んだ事もあった。
人の気持ちは、いつか変わると言うけれど。 でも。僕は終わりには出来なかった。
最期の時。再び、僕は君と2人になれたね。
君は僕にこう言った。
もし。
今はそうじゃなくても。
どこか、遠い所で、また会える。
その時は。
これを持って。
あなたの前に現れてもいいですか。
そう言った君は、僕の写真を握りしめていた。梅が咲くころまでに生きたいと言っていたそれが叶いそうにない君の、せめてもの叶えられた、最期のわがままだった。君はもう、字を書く事が出来なかった。
君の言葉の意味は。その時の僕には分からなかった。分かったと約束をし。いつまでも待っている。と答えた。
君がいなくなって。
その言葉を頼りに。
何年も。僕は、君が現れるのを、どこかで待ち続けていた。
君はいないはずなのに。
君が亡くなって、10数年後に、僕は、父の病院を継いで、妻と子供を設け、僕は家族を大切だったが。
でも。
こうして、年を取り、病になり、死を目の前にして、やっと君の言っていた事が分かった。
何年か、何十年、百年先でもいい。
君が持っていた写真と。君へ書いたこの手紙が引き合わさった時は。
今度こそ、その時の「僕たち」が、再び引き合う時だ。
その時は、ずっと一緒にいよう。
そう誓う事を、大切な妻と子供達には、許してほしい。
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手紙はここで終わっていた。
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