2020年・良哉・真相と手紙


「れい子」


昔から、その名前にはどこか愛着があった。


その名前のひとが。


僕のもとに現れる。


そして、僕は恋に落ちる。



自分でもよく分からない、僕はどうして、そんな事を考るんだろう。それは記憶として、物心ついた時からずっと僕の胸の片隅にあった。


学生時代はいいなと思う人もいたし、実際、何人か女性経験もある。 でも。時折、それは僕を思い出させた。



そして、今日、祖母宅にきたあの女の子は、れい子と名乗った。


これは偶然なのか。


あの子は以前にも仕事先で会っていて。


あの子を、黒木さんの家で見かけた時。


もちろん、魅力的な雰囲気を持つ子だと思ったけれど。


それ以上に。


初めて会った気がしなかったのだ。


「綺麗なお嬢さんですね。」


そう、娘さんに話したのは、もちろんそう思ったのと、もう一瞬だけ、その子の顔を見たかったからだ。


「れい子」も、僕をじっ、、 と見て、、そして口角を上げて頭を下げると、部屋にはいっていった。

当時は、僕は黒木さんの所の奥さんが亡くなられたので、その保険の手続きで僕は娘さんの(れい子の母)家に伺っていたのだった。(僕は生命保険の会社に勤めている)カーテンやテーブルクロスはすべてあの子が選んだんですよ、あの子オシャレだから、とお母さんが言っていた。本当に、ものは多いものの、とてもオシャレな、落ち着いた家だった。


そして、その子は、さっき、再び僕の所に来た。そして、偶然にも彼女の名前はれい子といった。


 彼女が「れい子」なのだろうか。


 れい子は、僕そっくりの写真を持ってきて、そしてこの着物をくれた。祖母宅にあったものだと言っていた。そして、その着物に、書かれてあった名前も「れい子」。


 この、僕の中に存在している、れい子が何者なのか。今日あったあの子と接点はあるのか?。写真の僕そっくりなこの人は誰なのか?写真の裏にここの住所が書いてあるから、僕の親戚か?。手がかりはれい子の持ってきた箱の中に何も無かった。


 とりあえず僕はその子の持ってきた白い着物と写真を預かる事にした。何かわかれば連絡しますと告げて、僕はれい子と連絡先を交換した。


 スマホとスマホを近づけるために、れい子が僕の近くに来た時すっ・・・とシャンプーの香りとハンドクリームの香りがした。 少し間近に見える彼女の顔は大人らしく化粧をし、少し口角が上がった唇が赤かった。どきりとした。この感覚を、だいぶ前に感じたことがある気がした。


 SNSは便利で、すんなりと交換でき、れい子の彼女らしい笑顔がのったアイコンがすぐにアプリに登録されていた。


 れい子を駅まで送る。


「学校は夏休みなの?。」


 声がなんとなく聞きたくて駅までの間、会話をした。

八月の頭なので、明らかに夏休みなのだろうが。

部活などはしてるのか?。という問いに、ネイルや色彩の勉強の同好会に入っています。と彼女は答えた。「へぇ・・・。」と僕は驚いた。そんな同好会が今の高校にはあるのか。時代が進んでるなぁ~とただただ驚く僕はすっかりオヤジであった。僕はまだ23歳だけれども。


「・・・良哉さんは、お仕事、お休みなんですか?。」


 そう。と僕は答えた。僕の仕事は土曜日休みじゃない代わりに平日のどこかで週に一度休めるのだった。


「じゃあ、えっと・・・・。また、会えますか?。私はいつでも空いてるんですけど。」


 どきり。


「えっと・・・会えるってそういう意味じゃなくて、何か・・・写真の事で分かったら。」


なんだ。誘われたわけではないのか。いや、落ち着け。

相手は高校生の女の子だ。犯罪だ犯罪。


「もちろん。すぐに連絡するよ。」


僕は平静をよそおい、言った。


 れい子が駅の改札をくぐるのを見届けると、僕は足早に祖母宅へ戻り、物置の中を探る事にした。広い祖母宅は、物置が広く、明けた事のない箱やら何やらがいっぱいあった。その中に、この写真と、着物が何なのか手がかりがあるかも知れなかった。


 気が遠くなる思いがしたが、何か分かったら連絡しますと言った以上、何もしない訳にはいかない。


 しかし、その必要は無かった。


 僕を待ち構えていた祖母が、僕に「これ」を渡してくれたのだった。


 それは、一通の手紙だった。


 


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