2020年・礼子・写真とともに入っていたもの
「うれしそうだねぇ。れいこちゃん。」
ふたたび差し出されたお茶を、ありがとうございます。と私は再び受け取った。
向かいには、良哉さんが座っている。(おばあちゃんが良哉さんと呼んでいたので私もそう呼ぶ事にする。)
今日初めて会ったばかりのおばあちゃんは、私にうれしそうだねぇと何回も言いながらも自分が嬉しそうだった。 孫が来たみたいで嬉しいんだよ、と良哉さんは言ってくれた。
どうもありがとう。と言って、良哉さんは、私がもってきたクッキーを食べてくれた。
うれしいのは事実だ。私は昔から感情が顔に出るタイプだ。
だって、好きな人がいる。見た目しか知らないけれど、あと保険会社の営業の人という事が分かったから、それしか知らないけれど。今日はスーツを着てもおじさんに見えないタイプだと言う事。そして、今日着ている普段の服もとても素敵だし、今日だけでも、こんなにこの人の事を知った。
(2回くらい会ったら普通に知りえる事だと思うけどね!。)
とりあえず、私が持ってきた箱の中をすべて出した。すべてと言っても、その大きな箱の中は、かつて白かったであろう色の、ものすごく古い着物が入っているだけだった。
それに触れるのをためらっていると、良哉さんが俺がやるよ、と言ってくれ、私はおばあちゃんが持ってきてくれた新聞紙をひいて、その上に着物を広げた。
なんともいえない・・・・けしていい匂いとは言えない匂いが鼻をついた。
写真の中の男の人のものだと思ったけれど、男性の着物にしては小さく、はしが襟元と、袖元に赤の花の刺繍がことごとくあしらわれていた。
こんなに古くなかったら。すごく綺麗な着物だっただろうなと思った。私ならそれを着てお嫁に行きたい。
「・・・・!。」
結婚したいとも、彼氏が欲しいとも思わなかったのに、それを来てお嫁に行きたいだなんて、どうして、そんな事を思ったのだろう。
私はおそるおそる、その着物に触れた。いつの時代のものなんだろう。それに触れたとたん、何かが・・・・うまく言い表せないけれど、何かが舞い降りたような感覚がした。
なんだか、だいぶ昔からこの着物を着た事があるような気がしてきたのだ。
それを確かめるように、私は、たもとを引き寄せ、そこを裏返した。
そこにも小さく花があしらわれていて、横に名前が刺繍されてあった。
「れい子」と。
「れいこ・・・?。」
やっぱり、そこに名前があった。と思うのはどうしてだろう。
その瞬間。
なんだろう。とてつもない感情に襲われた。
そこに名前が刺繍されている事を、どうして知っているのか、自分でも分からなかった。
でも、その着物をわたしは確かに昔から知っていた。私は、その花の刺繍を知っている。この刺繍をしたのも、その名前を刺繍したのも、この私だと。いつ?わからない。。
「君もれいこと言うね。」
私に気を使わせないようにだろうか。良哉さんは一緒にお茶を飲んだ辺りから親しみやすく声をかけてくれるようになった。
「あ・・・。」何か沸き上がってきたものはすぐに消えた。
そして良哉さんは軽く驚いたような声をあげた。
「もしかして、先週。黒木さんの件で伺った時の、●市で会ったかな?。」
黒木さんは、母の旧姓であり、私の亡くなった祖母の苗字だ。
「そうです!。」
軽く跳び跳ねてしまった。。良かった。思い出してくれた!。私は、にっこり笑って答えた。
すうっ・・・と、先ほどの深い、沈んでいきそうな感覚は引いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます