魔天の方舟
ナタ
第1話
魔王「そなたさぁ、思ったけど世界を滅ぼす意味ってなくない?」
参謀「何をおっしゃりますか魔王様。魔族の楽園は過去からの悲願、それを捨てるなんてとんでもありません」
魔王「いやそれはもちろん忘れてないけど、それはこの世界でなくてもいいんじゃないかってさ」
参謀「? どういうお戯れでしょうか」
魔王「暇潰しがてらに、魔術の研鑽も兼ねて天体の研究もしていたんだが、どうやら天の果てには我らのいるこの世界に、より近い環境があるらしいんだ。夜空の向こうには無限の世界が広がっているようだ」
参謀「まさか、我らの世界と異なる世界が天にあると!? 世界は一つだけではなかったのですか」
魔王「そうだ。だからそこへ行く」
参謀「さすが魔王様、なんという慧眼!」
魔王「この世界にはあの面倒くさい人間だけじゃなく、エルフやドワーフや獣人やらが跋扈している。しかも奴らは奴ら同士で諍いを起こす有様だ。見苦しいし相手にするほうが馬鹿らしくなってきた」
参謀「君子危うきに近寄らず、争いは同じ低俗の間でしか起こらない、ですな」
魔王「うむ」
参謀「私も興味が湧きましたので、具体的な展望をお教え下さい」
魔王「よかろう。まず侵略は止める。防衛に特化させよう。そして各地から資源を集めるのだ。我が設計した「世界を渡る方舟」を創り上げる! 時が来たらば希望する魔族を船に乗せ、新天地へと征く!」
参謀「おお! 壮大ですな! しかし魔王様、これは他の魔族から逃避であると蔑まれはしないでしょうか。仮にも全ての魔族を統べる魔王様です。内部の分裂は好ましくありません」
魔王「魔族の中にはこの世界を離れたくない者もいるだろう。そういう者たちの自由を否定はすまい。力を以て支配するか、力を以て新天地を目指すも、それは楽園樹立に等しいさ。この世界に残る者たちが幸せになればそれでよい」
参謀「なるほど」
魔王「幸いにも我らの身体は、異世界への旅に都合がいい。非魔族と比べても長命でかつ肉体的にも優れているから、長き旅にも耐えられる。この幸運を喜ぼう」
参謀「かつて蔑まれたこの肉体こそが世界を渡るに相応しいと証明される。これほどの嬉しみはありますまい」
魔王「こうも駄弁っている時間も惜しい。『魔天の方舟』計画を今ここに始めるぞ!」
参謀「畏まりました、我らが主、魔王様!」
◆
参謀「魔王様、方舟とその発射装置が完成しましたぞ!」
魔王「でかした! まるで天空へと届かんとする架け橋ではないか!」
参謀「勇者の何人かが新手のダンジョンかと思い込んで侵略してきましたが、財宝も何もないとわかるとあっさりと退きました」
魔王「これが最高の宝と理解できんとはな!」
参謀「ところで魔王様、方舟開発のための技術を流用して数多くの兵器ができましたが、如何します」
魔王「ほう、非魔族では生息できないほどに世界を汚す魔の光と、世界各地に飛翔し撃ち込むことができる兵器か……さしずめミサイルといったところか! 古文書に似た記述があったのを覚えている」
参謀「私めにミサイルという言葉はよくわかりませんが、この世界に残る魔族たちへの良い置き土産となるでしょう! これを使えば魔族の楽園へと早変わりです!」
魔王「いいや、この世界に住む全ての者たちへの福音だ! 遠回りこそが近道であるとはな……もちろんこれを撃ち込めば我らが別世界に行く必要もなくなるが……憧れは、止められない!!」
参謀「それでこそ魔王様です。私はどこまでもお供しますぞ」
魔王「我らが征く別世界にも、もしかしたらすでに知的生命体はいるかもしれない。我らと敵対する存在であるかもしれない。だが、我らは魔族。世界を渡り、その全てに我らの楽園を築いてみせる! 憧れと夢が続く限り!!」
参謀「魔導エンジン起動! 秒読み始め! 搭乗者は衝撃に備えよ! 魔王様、号令は貴方様に」
魔王「魔天の方舟、出撃!」
【終わり】
魔天の方舟 ナタ @natal5
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