第10話 隣からのラブコール

 学校というものは、一日休むだけで人の意志に関係なく授業が進むものである。


 この現象に対し、過去に長期にわたり学校を休んでいた経験のある僕は、浦島太郎状態と命名した。


 そしてその現象が起こった時、上手く時間軸に対応するための特効薬は友人だと断言できる。


 そしてその特効薬を作るには、積極的に人と関わりを持つ事が大前提。


 その友人作りという最初のイベントを逃した僕はもう既にクラス内で、孤独を感じつつあった。


 クラスに入ると、既にコミュニティは形成されており、昨日は楽しかったねーだとか、中学時代はなんの部活をやってただとか、あの子可愛くない? 俺狙っちゃおうかななんて年相応の会話が繰り広げられていた。


 普通に高校生活を送りたいと思っていたが、これはいきなり出鼻をくじかれてしまった。


 それもこれも全て、今隣でクラスメイトと楽しそうに談笑しているS級美少女露出狂変態女のせいなのだけれども。


「御手洗さんも来ればよかったのにー、超盛り上がってたよ」


「そうそう、田中君がさぁ――」


 なんて、既に明らかクラス内上位と見て取れる雰囲気の人間と平然と接しているものだから改めて、容姿は徳しか生まない事を実感した。


 可愛ければ基本的に人生簡単に壁を越えてしまう。可愛ければ、中身がとんでもない変態でも許されるのだ。


 まぁそんな事、このクラス内で僕しか知らないのだけれども。


「そうだったんですね、私も参加したかったです」


 と、平然と御手洗は残念そうに苦笑いを浮かべるものだから、本当に大したものだ。その表情が本当の性格に比例していたら何も難は無いのだけれども。


「昨日はどうしても外せない用事があったので……また機会があれば誘ってください」


 何が外せない用事だ。昨日僕の机を漁って個人情報を抜き取る事のは、用事ではなくて普通に犯罪だ。


 そういえばと、僕は教室を見渡す。


 小さなツインテールを探すも、見当たらず。どうやら響梓はまだクラスには来ていない様子だった。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 チャイムが鳴り、またねと言って隣で囲んでいた女子たちが散っていく。小さく御手洗が手を振り返し、関係のない男子が彼女に視線を向ける。


 否応なく注目を集めてしまうあたり、やっぱこいつ見た目だけはS級美少女なんだよなぁ……


 数十秒ほどして担任が入室し、朝のショートホームルームが開始された。


 数秒後、僕のスマホにメッセージが届く。


「さぁ、変態ライフ、スタートですね♪」


 それは今隣で一瞬にして表情を変えた、変態女からのラブコールだった。

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