第9話 朝立ち

 翌朝。遅刻しまいとスマホにセットしておいた目覚まし時計で目を覚ます。


「いてて……」


 椅子に座ったまま寝落ちしたせいで、筋肉痛の様に痛い身体を何とか鼓舞し、バイブを止めてスマホを確認。


「メッセージ来てるな」


 通知は二通。


 深夜に届いていた一つは、響梓から。


「昨日連絡くれたのに返信できなくてごめんね、、、わたしカラオケの後親に帰って来いって言われちゃって、、、」


 と、可愛いスタンプ付きで昨日の返信できなかった理由について綴られていた。


 確かに入学式の後だったし、親に色々と言われてしまったのだろう。家庭の事情なので踏み込む事は出来ないので、「了解、忙しいのに返信ありがとう」とだけ返しておいた。


 それであと一つの通知だが……。


「こいつバカだろ……」


 送られていたのは、一枚の画像。


 鏡の前で黒の柄の付いた下着姿のS級美少女がM開脚をしている写真だった。


 大人びた雰囲気の下着は彼女の年齢以上に発達した身体によく馴染んでおり、目の部分を指で隠しているその様子は、SNSでよく見かけるエロアカウントのそれだ。


 また静止画で見て発見した事なのだが左太ももには大きなほくろがあり、素人感が二割増しで醸し出されていた。


 もう説明しなくても分かると思うが、朝っぱらから頭のおかしい画像を送ってくる人間は一人しかいない。


 そう、変態露出女である御手洗天音だ。


 で、思わず嘆息を吐いた一秒後に。


 ――ピロン♪


「勃ちました?」


「勃たねーよ!」


 思いっきりスマホをぶん投げてしまう。


 何このテンポの良さ、普通に気持ち悪いんですが。


 ――ピロン♪


「あぁん、乱暴にしないでください……」


 こいつ部屋に監視カメラとかしかけてるのか? それとも昨日スマホに変なアプリとか入れられたとか?


 ――ピロン♪


「そんなことしてませんよ。ただ、甲賀君の今の様子を妄想して送ってるだけです」


 だとしてもこのテンポの良さは気持ち悪すぎるわ。仕方ないので、スマホを拾い「お前に朝からかまってる暇はない」と送信。


 そしたら……。


「つれないですね、私達変態同盟なのに。無視するなら、甲賀君の秘密を公表してもいいんですよ?」


 そういえばこの頭のおかしい女と、勢いでそんな同盟を交わしてしまったんだった。


 ただ、彼女が僕の秘密を握っているのもしかり。僕も彼女の秘密を持っている。


 それにこいつは自身が変態だと証拠づけるように、画像まで送ってきやがったのだ。大層な挑発だと呆れを通り越して感心してしまう。


「……それで、用件はなんだ」


 会話を続ける意思表示を送信。すると。


 ――ピロン♪


「私が個人的に裸を甲賀君に見せたくなくなってしまって……興奮しましたか?」


「するか、バーカ」


 少なくとも僕は彼女の裸体をリアルで見ている。今更下着姿で欲情出来る訳が無かった。


 ――ピロン♪


「残念です。まぁ、リアルでしてくれた方が私にとっても都合がいいんですけどね」


「そうかよ」


 僕は彼女で勃つ事は無い。そもそもアプローチの方法を間違えている限り、絶対に無いと断言する。


 ――ピロン♪


「では、今日のからの変態同士の秘密の学校、生活楽しみにしていますね♪ 変態甲賀君♪」


 その一文は間違いなく彼女からの宣戦布告だった。


「こいつ……やっぱり変態だな」


 昨日の今日で即発情とはこの女、余程お盛んらしい。


 流石に自分の性欲で人に迷惑を掛けるのはどうかと思うが、変態同盟を結んでいる以上逃げられる状況でもないので受けるしかないのだけれども。


「……」


 先ほど開いた画像をもう一度確認。保存期間が過ぎ閲覧できなくなるのが惜しいような気がして、思わず保存ボタンを押してしまった。


「まぁ、これくらいなら誰も不幸にはならないだろ」


 スマホを置いて身体も心も重いまま、朝支度をするのだった。

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