第8話 変態のスターレビュー

「――あぁ、上手くやってるって。それじゃあ切るからな、父さんによろしく」


 家族から掛かってきた電話を切り、背のある回転椅子に着席。


 入学式に出席出来なかった事を相当申し訳なく思っているらしく、またこれから一人の生活で大丈夫かという心配の一報だった。


 特に姉の方は相当心配しているらしく、「今すぐそっちに行く」と母親に泣きついているらしい。


 ブラコンの姉は持っていいものではない、ただ面倒くさいだけだと十五年間でよく実感していたので丁重にお断りさせていただいた。


 で、その後のこっちの事だが……。


「はぁ……」


 自室のパソコンの前で、吐き出すようにして深くため息。


 結局、あの後スマホを取り返し、響に連絡はしたものの何故か返信は無く。


 仕方なく駅前のカラオケ店に向かうも、クラスメイト一行は既に退店済みと店員から告げられてしまった。


「ちきしょう……全部あの露出狂のせいだ」


 そもそも、彼女とやり合い「変態同盟」なんてものを結ぶまで至らなければ、今頃スマホの内の連絡先は十にも、二十にも増えていたはずだ。


 だがしかし、増えたのはたった二つ。響梓とあの御手洗天音(変態露出狂女)の連絡先のみ。


 いくら相手がS級美少女だからと言ってもこれは本当に報われない。僕は美少女の連絡先が欲しくても、変態の連絡先が欲しいとは一回も望んでない。


「そういえば御手洗のやつ、なんで教室に残ってたんだ?」


 クラスメイトにカラオケに誘われた彼女は、用事があるからと言って断っていた。


 しかし、放課後教室に戻ると彼女は何故か残っていて、更には僕のパンドラボックスを勝手に閲覧していた。


 色々と理由は考えられるが、あの場で取り乱して理由を聞かなかったのが非常に惜しい。


 まぁ、露出狂変態女の思考なんて分かりたくもないんだけれども。


「まぁ……とりあえず一番の深淵だけは覗かれてないみたいだったから、不幸中の幸いだよな」


 パソコンを立ち上げ、SNSのアカウントにログイン。


 画面には、「助勃痴(スケダチ)」と名前が表示され、金髪美女のアイコンが登場した。


 このアカウントはスマホにも同期されている。その為、もしかしたらあの変態女に見られる可能性があったのだ。


「流石に、こいつがバレたら学校辞めるな……」


 昨日徹夜でプレイした新作エロゲ「イカセテオラ!改」のレビューをまとめていく。


 内容をざっくり説明すると上半身が露わになっているのに、ふんどしを巻いているというリアルじゃあり得ない爆乳美少女が現れ、いきなり脈絡がおかしい事を言い出し、突如性行為に及ぶという斬新かつエキセントリックなエロゲだ。


「内容は悪くは無かったが、流石に二十秒に一回ヒロインが「オラ!」は鳥肌が立ったな……評価2と」


 ちなみにエロゲ―の場合は10点満点、AVや映像のコンテンツは100点満点で評価するのが僕なりの流儀である。


 実家ではこっそりやっていたエロコンテンツレビューだが、越境してこの高校に進学した事によって今は一人暮らし。


 この四月から家族とは離れるも、エロと四六時中結びついた「ワイセツライフ」を送っていた。


「御手洗にバレたら人生終了するな、マジで」


 まぁ、御手洗以外にバレたとしても人生が終わるわけだけれども。


 実際現代、いや日本社会において性を扱うコンテンツは常に厳しい目を向けられている。


 余り今は掘り下げないが、アダルトコンテンツで生活している人間がいるのも確かだ。


 そして彼らは身と精神を削り、今も欲を満たすべくクリエイションを高めている。


 そういう人間に少しでも光が当たるべく、僕は自主的にこのような活動しているのだ。


 実際に反響も多く、最近ではレビューを当てにするファンの他、業界の人からも注目され始めていた。


 あっ、未成年とかそういうのはツッコんじゃだめだよ。


「――とりあえずは、こんな所か。後こっちも……改善なし、と」


 もう一つの別アカウントも更新し、椅子の背に沿って大きく伸びをする。


「ふぅ……」


 今日は本当に疲れた。


 本当はAVを三本ほど鑑賞して眠ろうと思ったが、身体がどうも言う事を聞いてくれないご様子。


 それもこれも、全部あの変態女のせいだ。


「ねむ……」


 意識がゆっくりと遠のいていく。


 そういえば、自分の素であそこまで人と言い争ったのは初めてかもしれない。


「……つきょぅ」


 苛立ちがどこか心地よい深みにはまり柔和される今日この頃。


 僕はゆっくりと深淵へ意識を落とすのだった――


 ◇


 ――そしてこの時、まだ僕がどんな状況にいて。


 御手洗天音という女の子が本当はどんな人間で。


 すぐそばで起こっていた事を知る由も無かった。

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