第5話 放課後だから

 さて、教室に帰っては来たものの隣の席には男女問わず凄いサークルが出来上がっていた。


 隙間から見える彼女の一つ一つの表情はなんだか眩しくて、どこにでもいる様な女子高生にしか見えない。だからこそ、なおさらなぜあんな過ちを繰り返してしまったのか、彼女にも何か闇が存在するのだろう。


 安心しろ、御手洗。俺は何も無かったことにして、学生生活を送らせてやるからな。


 ――キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴り、数秒後に担任が入室すると隣の人だかりがゆっくりと散っていく。


 残すはショートホームルームのみ。


 恐らく十分ほどで終わるので、適当にスマホでもいじって聞いていよう。


「あーお前ら、言い忘れてたけどこの学校スマホは授業中は使用禁止だからな。もし見つけたら、即没収。反省文十枚だぞー」


 担任のその説明に咄嗟にスマホを机の中へと押し込む。


 危ない危ない、スマホがなきゃ現代社会は一日でも生き抜くのが難しいご時世なので、これから気を付けようと胸にしまう。


 それから明日から始まる授業の説明や、また部活の見学と仮入部が開始される事が告げられ、特に何も滞りなく解散となった。


 当然一気に緩さを取り戻したクラスは、どこに遊びに行こうなどこれからの人間関係のネットワークを形成するために各々動き始める。


 隣の御手洗なんかは直ぐに囲まれ、カラオケやらなんやらの誘いを秒で受けていた。


 さて、俺も友人の一人くらいは作りたいところなのだが。中学時代のほぼを孤独で過ごしてきてしまった為、他人との距離感があまりよくつかめない。


 とりあえずこういうのは同じような雰囲気を人間を探せばいいと、ネットの記事で予習した。そこから会話をうまくつなげて、自然と友達という距離感に結び付くらしい。


 甲賀アイ! なんて、クラス中を見渡してみる。


 すると確かに、同じような雰囲気の人間が集まる傾向にあるのはよく見える。スポーツ系、文化系、放課後マック系……。


 十色なタイプがいるわけだが、どれも俺と合いそうなコミュニティではないのは確かだ。無理に押し入ってもいいが、「あ、えっと……」みたいな感じで、ゆくゆくぼっちパターンになり、腫物扱いされるのが一番きつい。


 なので、最初のカードは上手く切りたいものだが……。


「どうー? みんなでこの後カラオケでも行かないー?」


 突如教卓の前に姿を見せたのは、小柄でツインテールのアイドルフェイス女子。名前はよく覚えていないが、出席を取る際に気持ちのいい返事をしていた事だけは覚えている。


「おっ、いいね」「いくいくー」「混ぜてよー」


 と、バラバラに散っていたいくつかの塊でもない群れが、一気に彼女の元へと集まっていく。


 確かにそれなりに可愛いい子が、素直に公言したら皆に上手く伝播した形だ。


 きっと誰も皆初対面のこの教室で、どこかでその言葉を待っていたに違いない。


 彼女の事はよく知らないが素直にいい子なのか、自分の役回りをしっかりと理解しているのだろう。


 きっとあぁいう子がクラスの中心人物になっていくんだろうなぁ。


 彼女がうまく作ってくれたサークルは来るもの拒まずなようで、ゆっくりと一人、二人と吸収していく。


「あー残念、御手洗さんにも来てほしかったんだけどなぁ」


「ごめんなさい、今日は外せない用事があって」


 どうやら御手洗は、本日別用があってそもそも来れないらしい。御手洗を誘っていた女子グループを吸収し、ついには数人を残し大きな集団を形成した。


「残ってるメンツはどうするー?」


 ツインテール女子が再び優しく手綱を渡してくれる。


 で、あれば俺も断る理由もなく席を立つ。他数人も席を立ち、その輪へと合流した。


 しかし、一人。俺と背丈がそう変わらない長い髪を後ろでまとめた女子が、平然と教室を出て行こうとする。


「あ、待ってよ! 渡來わたらいさん!」


「何?」


「一緒に渡來さんもカラオケに行かないか、なんて思ったんだど……」


「あたしこれからバイトだから」


「バイト? 学校はバイトは申請を出さないと出来ないんじゃないの?」


「それなら明日にでも出すよ。もし何か言われたら家の手伝いって言っといて」


「はぁ……」


 唖然とするツインテール女子にもう用はないとばかりに、背を向け教室を出て行ってしまった。


 当然そんな愛想の無い態度をすればクラス中から、ひそひそと批難を向けられるわけで。


 もう少し上手くやればいいのにと、心の中で彼女が少し心配になった。


「じゃ、じゃあ行こうか。カラオケ!」


 まとめ役のその言葉に、ぞろぞろと教室を出て行くクラスメイト達。


 俺もその後に続き、上手くやろうと握りこぶしに小さく力を籠めるのだった。

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