第4話 エロ同人みたいに!

「はぁはぁ……」


 休み時間。トイレで息を切らす僕だが、別にやましい事をしているわけではないのであしからず。


 では、どうして頬を紅潮させ、はぁはぁしながら洋式の便器に項垂れているか。


 それは言うまでもなく、僕の隣に現れたあの露出狂が原因だった。


 彼女の名前は、「御手洗天音みたらいあまね」。


 入学初日からあの容姿で学年中の注目を集め、更には寄ってきた初対面の相手でも隔てなく応対する為、既に彼女はクラスの中心人物となっていた。


 が、それはあくまでクラス内での話。


 俺は彼女とは初対面ではない。


 その証拠に僕の童貞の脳みそは、彼女のあの変態的な表情と艶やかな身体は今も脳裏に焼き付いていた。


「つまり俺は……あの露出狂S級素人と同じ高校に進学してしまったという事か」


 そもそもの話。最初に僕がAVの撮影と勘違いしていた通り、御手洗天音は成人している女性なのではないかと思っていた。


 でも、それは間違いで、同じ高校の同じクラスの隣の席の……。


「いやいやどんな偶然だよ、エロゲかよラノベかよ」


 こういう宿命的なハプニングはあくまでフィクションとして楽しむから、受け入れられるのだ。


 実際問題同じ偶然が起こってみろ、普通に恐怖でしかない。


「で、でも、御手洗に会ったのはもう随分前の事だし、流石に彼女だって覚えてないだろ」


 覚えてない、うん、きっとそうだ、覚えていないはずだうん。


 僕の名前を知っていたのもきっと先生が名前を読み上げたからに違いない。


 それにもしかしたらこの状況、実は彼女の方が焦ってるんじゃないか?


 一時の迷いでやってしまった露出行為。


 それを知る人間に偶然にも、再会してしまったのだから。


 きっと今頃御手洗は、「う、嘘っ……あれは一時の迷いだったんです。何でも言う事聞きますからその事だけは誰にも言わないで下さいっ……」なんて、エロ同人でもありそうな展開を頭の中で繰り広げているのだろう。


 だが、安心しろ御手洗。一時の迷いは誰にだってある。


 もちろん僕だってあるし、紳士で真摯な甲賀宗太郎は彼女にそんな事を要求しない。


 それはあくまで作りものだからであって、初めて成立するのだ。


 この紳士、そこは絶対条件としてわきまえている。


「――って、考えると色々と解釈しやすいなうん」


 超横暴にかみ砕いたがきっとそうだろう。


 今日の帰宅後のオカズは、「私に乱暴するんでしょう! エロ同人みたいに!」をテーマの同人誌で抜こうと決意し、現実に戻る甲賀宗太郎であった。


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