第2話 春
季節は春。この度、
ここまでの道のりは苦難であった。それはそれはもう大変な受験期で、毎日机に向かい参考書を開き、時にはスマホを開いて自分を慰める生活。
まさに朝に上半身を動かし、夜に下半身を使うという社会を生きながら、性の本能に従う日々であった。
ただ後悔はない。それは頭のいい高校に入る、という建前もそうだが何より地元から離れた高校に進学する事が出来たからだ。
地元だと皆近隣の高校に進学する事が多く、中学からの系譜となる。
僕の場合、それではあかんのだ。
リア充になりたいとか、高校デビューしたいとかそんなんじゃない。
単純な話。普通の高校生になりたかったのだ。友達と毎日バカ話して、ゲーセンによって買い食いして。そんな普通に。
まぁ、前置きは置いといて。入学式を終えた僕は、一年間同じ教室で過ごす仲間と共に、体育館から校舎へと移動していた。
まだ顔を合わせて数十分の付き合い、会話はまばらで時折似たような雰囲気の学生が言葉を交わしているのが伺える。
僕はといえば……うん、当然誰とも話せる事無くただ茫然と床を踏んでいた。
三年前中学に入る時の自分はどうしてたっけ、思い返してみるが、何も掘り起こせない。きっと、今とそう変わらなかったという事だろう。
時間はいくらでもあるし、これから似たようなクラスメイトと仲良くなっていけばいいのだ。
「なぁ、すげー美人じゃねあの子」
自分に話しかけられたもんだと思ってしまい視線を向けるが、近くにいた二人の似たような中間層男子が話していただけだった。
僕も彼かと同じ系統に入るのだろうか。いや、それよりもっと下か。
ともかく、ちょっと話を盗み聞きしていると。
どうやらウチのクラスにモデル級の美少女がいるとのことだった。おっぱいも大きく、黒髪のストレート。まるで、男子高校生の妄想を形にしたような女子。
誰かは知らんが、いきなり注目を浴びるなんて僕からしたら苦痛でしかない。たとえ、自分がイケメンでも、美少女でも。
「あ、おいあれだろ!」
男子生徒の指さした先、そこには話通りの艶やかな黒髪の姿があった。確かに後ろ姿だけしか見えないが、雰囲気や身体のラインを見るに噂通りの様だ。
しかしあの黒髪にとてもつない既視感を覚えるのは気のせいだろうか。
「いや、気のせいだよな」
心の声を漏らしていたせいか、男子生徒が怪訝な目を向けながら通り過ぎていく。それはきっと彼らとは友達になる事はないと決定した瞬間だった。
はあとため息が漏れる。やはり人間関係というのは些細な事で、変動するから疲れる。
それはきっと、この春のせいだと僕は思う。
四月になれば学生達、また社会人は新しい環境になったりする。
それはどこにでも起こりえる事で、期待と不安を織り交ぜながら当事者たちはそれを受け入れるのだ。
僕にもこの先、何度もある事だろうが耐えられるか不安だ。
その度に新しい自分を作り、また環境に溶け込むなんて……。
いっそ、一生いられるコミュニティがあればいいんだけどな。
そんな誰も聞いていない、どうでもいいような中二ポエムを頭の中で読みふけりながら、教室へと足を向けるのだった。
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