エピソード7 ステーションワゴン

森に入る道をのぞき込む男。

彼の陰に隠れる女。

男が女の手を握る。

「行くの」

「ダメかい」

「ダメじゃないけど」

不安そうな彼女の表情を見つめる男。

「さっきの二人はもういないよ」

「向こうに歩いて行った」

女は森に沿った道の先を指さす。

「別にかまわないさ」

男は彼女を無視するように

森の中に入る道を歩きはじめる。

「一人で行って」

そう言って女は男の手を振り解こうと手を揺らす。

彼は彼女のほうに向きなおり微笑む。

「どうしたんだい」

彼女は男の手を振り解いて森沿いの道を歩いていく。

女はしばらく歩いて振り返る。

男の姿が消えていた。

彼女は走って戻って森の中に入る道を見る。

手招きをする男が見えた。

麦わら帽子の若者だ。

「どうぞ、こちらへ。羊さん」

「誰なの、あなたは」

「狼に見えますか」

「彼女はまだ海で泳いでいるんです」

「そのうち戻ってきますから」

女は後ずさりした後、小屋のほうに走り出した。

「待ってください」

男が女を追いかけてくる。

彼女は必死に逃げた。

日が暮れかけている。

夕日を反射するステーションワゴン。

ドアを開けて、中にすべりこむ彼女。

「どこに行っていたんだい」

運転席の男が彼女に言う。

車の隣には、水を滴らせた白いワンピースの女。

男が彼女の手を引いて森のほうに戻っていく。

車のラジオから流れるレゲエのリズム。

目の前にはコンクリートジャングルが広がっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偶然の日常Ⅴ 阿紋 @amon-1968

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ