エピソード2 麦わら帽子

女は男の被っている麦わら帽子の動きに合わせて、首を上下に振っている。

女の目には、サンダルをはいた彼の姿はほとんど見えていない。

彼女の着ている白いフワフワのワンピースが風に揺れている。

「あとどのくらいで海につくの」

男が女に聞いた。

「さあどうかしら」

女が彼の背中につぶやく。

そもそも彼女は彼が歩いている先に何があるかを知らない。

彼が海があると思い込んでいるだけ。

「そのまま泳ぐの」

「あたしは泳がないわ」

「脱げばいいさ」

女は彼の行く先に海がないことを願った。

「ねえ、ここに登ってみましょうよ」

彼女は森の入口で男に言う。

「何か見えるかもしれない」

男は森の入口をのぞいた。

「何も見えないよ」

「それよりもあの先に砂丘がある」

男は自分の行く先を指さした。

女にはずっと広がっている草原しか見えなかった。

「そうかもね」

彼女はためらった。

そして、彼の背中に抱きつく。

「ねえ、あそこにある小屋で休まない」

小屋の前では男女が二人を見ていた。

「どこにあるんだい」

「小屋なんて見えないよ」

彼は彼女に答えた。

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