偶然の日常Ⅴ
阿紋
エピソード1 瓶入りペプシ
容赦ない日差し。
男はじっと前を見つめ木製のベンチにすわっている。
彼女が彼に近寄り、瓶入りの冷えたペプシで彼の視線を遮った。
「どこで手に入れたの」
「そこの自販機」
「栓抜きはついてなかった」
彼女は不思議そうな顔をする。
「捻れば開くんでしょう」
「じゃあ、やってみたら」
女は栓を捻ってみる。
「痛い」
「ほらね」
男は彼女を見て微笑む。
「自販機についてるはずだよ、栓抜き」
女は両手に瓶を持って自販機のほうに歩いていく。
プシュっという瓶の開く音が二回、ぼやけた空気を揺らした。
「栓はどうするの」
「栓抜きの下に落ちなかった」
「落ちた」
「そこに栓が溜まってない」
「二つだけ」
「そのままでいいんだ」
「いいはずだよ」
女は男に栓の開いたペプシを渡す。
彼はペプシのビンを握ったまま、森のほうを見ている。
「飲まないの」
「ねえ、あの二人何をやってるのかな」
「どこにいるの」
「森の入口」
「見えないよ」
彼女はペプシを一口の飲んでそう言う。
森の入口の木の枝が少し揺れた。
男と女が彼女たちを見ていた。
「涼しそうだね」
彼女が彼に言う。
「何が」
「森の中」
女は振り返ると小屋の中に入っていく。
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