第12話 チャット

俺はまだゲネブエラ村から出発してはいなかった。リサを探すためだ。1ヶ月の間で装備も見た目も少しは変わってるかもしれないので、プレイヤー検索で「リサ」と入力して調べた。すでに使われている名前を、後から始めたプレイヤーが使うことができないため、すぐに見つけた。


「よかった……。まだ生存している。彼女のプレイヤーカードにどこにいるか書かれているはず。あった!ええと……、西の大陸のプランガーデン国?どこだそれ」


西の大陸というのはおそらく、新しく出現したフィールドのことだろう。ってことは、俺のいるここは東の大陸ってわけか。彼女にメール――つまり、チャットを使って連絡してみる。


『私の名前は、ダイモンといいます。あなたにゲネブエラ村の酒場にて、唐揚げを食べさせてあげた者です』


これで通じるかわからないが、早速送信する。ほんとに彼女ならば、一刻も早く西の大陸に行かなければならない。彼女は唯一、俺が心を許せるプレイヤーだからだ。彼女を決して、プレイヤーにも、モンスターにも殺させはしない……。


あれから1時間が経過した。すると、チャットに新着メールがあるとお知らせがあったので、開いてみる。送り主はやはり彼女、リサだ。安心感でため息をつき、メールの内容を確認する。


『あなたの名前、ダイモンって言うのね。あなただけ言わないでどっか言っちゃうんだから、思わず顔をふくらませるところだったわ。よ・ろ・し・く!で、なんで私にいきなり連絡を?』


俺はしばらく沈黙してしまった。彼女に連絡をしたのは他でもない、安否確認だから。

それを言うのは少し恥ずかしいので、照れ隠しをしながら返信する。


『いや、元気かなぁって心配しただけだよ。そっちの西の大陸はどうだ?ギルド仲間はできたか?』


『ええ。以前と変わらず、元気だよ!今は……だけど……。ギルドメンバーとも楽しくやってるから心配しなくてもいいよ!』


返信内容の今は……のところに、危険センサーを感じた。彼女はなにかを、ギルメンにやらされているのか?疑問に思ってきたのでそのことを送ってみる。


『今は……の部分に違和感を感じたんだが、なにかあるのか?嫌なことでも。助けが必要なら俺になんでも言ってくれ』


『なん……でも、か。うん。ほんとは、このギルドにいるのが苦しい。助け……て』


俺は激怒ピークに達しそうであった。今は、夜なので宿屋で過ごしているため、誰にも聞かれることはないが、いざ昼間だったら。周りから注目を浴びていたことだろう。


「こうしちゃいられねぇ!助けを呼んでいるんだ。復讐はあとでいい。助けを求める者に手を差し伸べなくてどうするか。なにが救世主だ」


俺は急いで準備をして、宿屋の1階にてチェックアウトを済ませ、港へと向かった。


『待っていろ……。必ず、助けてやる』


これが出発する前に送ったチャットである。

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