第8話 揺らぐ心

「ぐあああ!!ダンジョンなんて嫌いだぁあああ!!!!!」


俺は現在初心者おすすめダンジョンにて、探索を行っていた。しかし、出現するモンスターの類が全て骸骨種だの、ゾンビだの、そういった系ばかりだったからだ。特に、幽霊系が出た時の悲鳴といったらもう、表現出来ないほどやばい。


「ちきしょう!ダンジョンなんて……。アンデッドがこんなに出るなんて思うわけないやん!幽霊系には魔法か対幽霊専用装備による攻撃しか効かないってモンスター図鑑に載ってるしよぉ!レベル13で挑めるダンジョンじゃないだろこれ!」


俺は涙目になりながら必死に逃げていた。後ろからは、 骸骨種のモンスターが3体、どれもレベル5ぐらいだ。その両翼には(布陣としての意味の両翼である)幽霊系モンスターが2体。左右に一体ずつのどっちもレベルは7。


レベルこそ低いものの、俺の今のスキルや武器では太刀打ちできない。骸骨種にはどうにかしたらいけるが、幽霊系にはとても無理だ。


「このダンジョンのこと……、もうちょい知っておくべきだったか」


復讐に燃える以前の問題だったらしい。せいすいすら持ってないこの状況でどうしろと。


「だって、初心者おすすめダンジョンといえば、スライムとかミニドラゴンが主流だろ!?くっ!これからは調べてから未知のところへ行くしかない」


俺は新たな決意を固めるのであった。


――――――――――――――――――――


「ダンジョン怖い……ダンジョン怖い」


ダンジョン恐怖症をついに発症してしまった俺は、始まりの村の酒場で一休みしていた。


「仲間はいらねぇ……。裏切られるだけだ。裏切られるぐらいなら、ソロで強くなっていくしかないんだ」


俺はひとりブツブツ言っていた。すると、そこに黒髪の身長は俺より少し低い、年齢は10代だろうか?の人物が俺の座ってるテーブルに来るや否や、


「ちょっと相席いい?」


と、聞いてきた。彼女の無垢なその表情からして悪い気はしなかった。


「どうぞ」


「あ、ありがとう」


彼女はなぜか、俺の服装……とういうより装備をジロジロ見てきた。


「あの、なんか俺の装備に付いてます?」


「い、いえ!つい、カッコイイなって思わず見とれてて」


彼女こそ真のヒロインだっ!と俺は確信を得ていた。しかし、ソロでやることを決意した俺には関係ない。


「ふん、褒めたってなにも出ないぞ」


「わかってますってば」


……やっぱり可愛い。彼女の可愛いさは、ほんとに可憐で最高級だろう。


「わかってるならいい」


そんな彼女との何気ない会話をしているうちに、頼んでおいた料理が届いた。


「へい、お待ち!こちらゲネブエラ名物の、【スライムゼリー】と【キング・ウルフの唐揚げ】だよ!」


「ありがとう」


礼を言ってから俺は、店員に1000ゴールドを支払った。この酒場の支払い方法は、料理がテーブルに出されてから払うという仕組みらしい。ボタンがあるのだが、それを押すと自動的に支払われる仕組みだ。


「この世界の料理って高いわよね。そんな黄色くて小さいゼリー1個だけで500ゴールドだもの」


「たしかにな。でも、美味さはリアルのゼリーとあんま変わらん。このスライムゼリーはレモン味をしている。この唐揚げだって、リアルの唐揚げと同じ味だ」


「へぇ〜、1つ、唐揚げ食べてもいいかな?」


彼女の上目遣いがまじでやばい。理性が飛びそうになってしまう。


「ああ、いいぞ」


このゲームの酒場には、元々テーブルの上に箸やらフォークやらが置いてあるということはないため、半強制的に関節キスをしなければわけることはできない。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいけど……。いただきます!」


ここの酒場はそんなに人気があるわけでもないため、日中静けさがあるが、今日はちょっと違う。なんにせよ、真のヒロインが目の前で俺の口を付けた箸を使って食べてるからだ。


「う、う、美味い!!!なんなのこの美味さは!こんな美味い料理……。このゲームを初めてから食べたことがないわ!教えてくれてありがとう」


彼女の食べた時のもぐもぐしているところは、まさに絶世の美女と思わせるほどだ。食べさせて正解だったと思う。たしかに、言われてみればこの酒場以外の店の料理は全然美味くなかった。なんでだろうな。


「そんなに美味しかったならよかった。そうだ、君、プレイヤー名は?ここで飯食ったら出て行っちゃうだろ?だから一応聞かせてくれ」


「私の名前?そうね、ほい」


彼女は、自分のプレイヤーカードを画面で見せてきた。


「どれどれ」


眺めているとそこには、


プレイヤー名

リサ

レベル

5

HP200

物理攻撃力

20

魔法攻撃力

120

物理耐性

30

魔法耐性

50

素早さ60

幸運20


幸運値が全然無いやん。俺の幸運値でも、レベル13だが100はある。上限は知らないけど……。幸運値というのは、ダンジョンを探索した際の最下層に眠る宝箱から手に入るアイテムの質に関係してきたり、このゲームにおける結婚システムにも影響したり、レア度の高いアイテムのドロップ率にも影響してくる。


こういった感じで、幸運値というのは凄く大事な値なのだ。


「リサって言うのか、俺の名前はダイモン。よろしく」


「う、うん!よろしくねダイモン」


そんな照れくさそうに言う姿もまた可愛い。俺は食べ終わったので彼女に「ありがとう」と言ってから酒場を出て行った。


「フレンド登録……。しておくべきだったかな」


俺はそう言ってまた、さっき向かったダンジョンでの探索をスムーズに行うべく、準備に取り掛かろうとしていた。


――――――――――――――――――――


時同じくして、CrisisWorldの制作会社本部では。


「ぐっ……。な、なにをするか!私がいなければ、そのゲームは続けられなくなるのだぞ!」


その会社のビルの屋上にて、縛られてマスク、黒フードを着ている何者かに拳銃を向けられているこの男の名は、CrisisWorld制作会社の社長にして、製作者代表でもある、本藤時宗ほんどうときむねである。


「貴様に、あのゲームは務まらない。排除する」


「やめろ!やめてくれ!頼む!」


泣きじゃくりながら黒フードにしがみつこうとするが、縛られているせいで全然進まない。


「じゃあな、社長」


銃声と共に社長は顔を撃たれ、死亡した。

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