第6話 白銀の騎士


俺の目の前で甲高い金属音が鳴り響く。その正体は、俺に向かって放たれた矢を銀色に包まれたソードマスターがそれもまた銀色の剣で弾き返した時のだった。


「怪我はないか」


その者は俺にそう訪ねてきた。このゲームには、怪我という概念が存在しないが、HPのことをきっと言っているのだろう。彼の声は可憐な低い声で、いかにも騎士であるかのように――。


「いえ、大丈夫です……。助けていただきありがとうございます」


「礼を言うにはまだはやいぞ」


その直後、銀色の騎士に向かってシャドウクローが放たれた。しかし、それも見事に弾く。


「甘いな、その程度でPKをしていたのか。その実力では高レベルプレイヤーには勝てんよ」


すると爪使いは


「そんなの分かりきっていることだ……。だからこそ!!こうやって初心者狩りをしているのではないかぁ!」


「いま、この世界は――。いや、このVRMMOは危機に迫っているというのに、貴様らはなぜPKをするか」


「危機感なんて全く感じないが?」


「それは、NPCどもがプレイヤーに察せられないようにいつも通りに接しているからだよ」


その頃、矢を放った本人は、彼の突然の登場に呆気に取られていたがやがて口を開けて声を出す。


「あ、あれはまさか――。上層で有名な、いや有名というより知らない人はいない存在……の、【白銀の騎士】!?」


「まずいまずいまずいまずいまずい。あんなのと、今は渡り合える実力は俺たちにはないんだ。さっさと退却するのが良策」


彼は、正式サービス開始時に特典としてもらった通話機能を持つ電話機器的なやつに手をそれに添える形でフーラに話かける。そのアイテムはBluetoothのような形の物である。


「フーラさん?聞こえます?そいつ、やばいですよ……。例の白銀の騎士です!俺たちでは手に負えるはずがありません。撤退するのが一番です!」


「あ?白銀の騎士がわざわざ下層に来るはずないでしょぉ〜?私たちでどうこうするのが仕事でしょうが!ほら、行くよ」


その会話が白銀の騎士には聞こえていたらしく


「貴様ら、撤退した方が自分たちの身のためにもなるとは思っていたのだがな……。仕方ないか、最下位スキルで相手してやる。【グリネイド・オーバーロード】」


すると、彼の剣が凄まじい銀色の輝きを発したかと思ったのも束の間。その輝きから無数の光線が一気に解き放たれる。敵のパーティー三人は一網打尽と言わんばかりの勢いで倒れていった。そう、ポリゴンの欠片となりて消えてったのだ。


「あとはあの崖の上にいるやつか。おい、おまえワープ魔法は使えるのか?」


「わ、ワープですか?今スキルポイント30あるので使えないことはないですね。今白銀の騎士は自分と同じパーティー扱いになったので、先程の相手が殺られた際にレベルも上がったので。今覚えておきますね」


てか、白銀の騎士と呼ばれるその男はワープ魔法を習得しなかったのか。ソードマスターは、下位職業でありながら数多のスキルを習得できるらしい。俺も今気づいたことだが、魔法も基本中の基本のやつなら覚えられるみたいだ。


「では、習得しました。騎士様の目の前に出現させればいいんですね?」


「ああ、頼む」


俺の足元に魔法陣が出現し、そこから紫の強い光のオーラが出たと思ったら、騎士の前にワープが出現した。


「よし」


彼はそのワープへと入って行った。


「ひぃいいいい!!来る!やつが来る!あいつら、勝てるかもとか言っておいて負けやがってぇえええ!ちきしょ!ちきしょぉぉぉ!!、っ!?」


彼は最後に素っ頓狂な声を上げて消滅した。俺もワープに入り騎士の元へと向かった。


「助けていただき、ありがとうございます。騎士様のおかげで折れていた心も回復しそうです」


俺は笑顔で騎士様にお礼を言う。しかし――。


「その笑顔が気に食わない」


首が斬られる音。俺はこの騎士にも裏切られたのであった――。

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