第6話 ケイ、合唱部に仮入部する

 アイドルをやっていく事と同時に、片桐はあたいに条件をつけてきた。


 学校に通う事。学校にはたくさんの価値観を持った人がいるから色んな人と会う事。


 同世代がどんな事を考え、どんな事に悩み、何が今の子達に受けるかをアイドル活動に繋げろとの事だ。


 あとケンカは極力するな。ちょっとはしていいのかよと言いたくなるが、今までは自分の気持ちを守るために戦って来た。


その拳を誰かを守るためならいいとの事だ。


 なんとなく言っている事がわかるようなわからんような。


 まぁ最近は登も家に迎えに来るので、仕方なしに学校に通うという条件はクリアしている。


 今はお昼の時間、ご飯を食べ終えあたいは席を立った。


「ケイちゃんどこ行くの?」


「トイレだよ! そんな事くらいいちいち言わなくてもいいだろ!」


 登は心配するのはいいとこでもあるんだが度が過ぎる気もする。


 あたいは一年の教室の奥のトイレに入った。


 そこには……


 どう見ても楽しく遊んでるようには見えない4人組がいる。


 3人は笑っていて、1人はずぶ濡れだ。誰が見てもわかるがいじめってやつだな。


 トイレの入り口に立っていると笑っていた3人の1人のうちのノッポが話しかけてきた。


 ちょっと化粧が濃いな。


「アンタ、さっきから眺めてるけどなんかあたし達に何か言いたいわけ?」


「あたいはただトイレに来ただけだよ、アンタ達こそ何やってたんだい?」


「学ランなんか羽織ってお前生意気そうだな、アンタあたし達の後輩じゃん、その学ラン脱げよ」


 化粧が濃いノッポはあたいのリボンの赤色を見て後輩と分かったらしい、ちなみにノッポは緑なので二年だ。


 ノッポがイキって突っかかってくる中、3人のうちポッチャリが何か気づいたみたいだ。


「こいつ、最近ヤバイって一年のやつだよ、黒龍の夏目だ!」


 そういうと3人はさっそうとトイレを出て行った。


 二年にもあたいのあだ名が通ってるんだな、ケンカせずにすんで助かったが。


 わざわざ二年が一年のトイレで誰かをいびるなんてやらしい奴らだ。


 1人奥に残った小柄な子は震え、腰が抜けたのか座りながらこっちを見ている。その子もリボンは緑色だ。どうやら二年生らしい。


「あの、私、お金とか、持ってないんで、どうか助けて下さい」


「お前なぁ、あたいはそんな事しねぇよ、着替え、あるか?」


「……ないです、うっうっ」


「泣くなよ、あたいの体操服貸してやるからちょっと待ってろよ、なんなら保健室行くか?」


 泣きながらもずぶ濡れ先輩は、うなずき座りこんでいた。


 あたいはとりあえず用を足し、教室まで体操服を取りに行き、先輩を保健室まで連れて行った。


 ベッドの上に座る先輩は、落ち着きを取り戻して来たのか、次第に泣き止んだ。


「落ち着いたかい?」


「はい、ありがとうございます」


「あたい後輩なんだから敬語じゃなくていいよ」


「助けてくれたんです、だからこのまま話させて下さい」


「アンタ名前は?」


「涼原美波(すずはらみなみ)です」


「美波さんはなんであんな連中に絡まれていたんだい?」


「……私の事がどうも気に入らないようなので」


「気に入らない事……ねぇ」


「私合唱部なんです、部活で少し揉め事になってしまったんです」

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