第5話 事務所に行く3

 事務所の扉が力強く開いた。


 なんだ?


 扉の方に目を向けると、なんと登がいた。


 なんで登がここに。


 登は険しい顔で片桐に近づき、こう言った。


「僕はケイちゃんの友達の登と言います! どうかケイちゃんを危ない世界に引き込まないで下さい!」


 あたいと片桐はよくわからずポカーンとした表情になった。


「危ない世界? なんだそりゃ?」


「だってここは暴力で解決する人達が集まる場所なんでしょ!? ケイちゃん早く帰るよ!」


 登はあたいの腕をつかみ、思い切り引っ張られた。


「おいおい! 待て登! 勘違いしてるぞ!」


「勘違いなんかしてないよ! こんなとこにいたらケイちゃんはずっとケンカばっかりするに違いないんだから!」


「落ち着け! あたいはケンカするためにここに来たんじゃねぇ!」


「じゃあケンカしに来たんじゃないって証明できる!?」


「証明? えっと……」



「できるわよ」



片桐はそういい、あたいに指を指した。


「ケイの格好をよく見てちょうだい」


 登はあたいに目を向けて、服装をまじまじと見た。


「……ケイちゃん、その格好、何?」


 !!!!


 急に登が入ってきたから忘れていたが、あたいは片桐にアイドルの衣装を着せられていたんだった!


 こんな格好を誰かに見られたくなかったのに、一番身近な見られたくない奴に見られちまった!


 間髪入れず片桐は事務所に置いてあるテレビに電源をつけ、ある映像を流した。


 歌が聞こえる、なんだか聞いたことある声だ。まさか。


 片桐はこの前のあたいのライブ映像を流し出した!


 は、恥ずかしい!やめろよ!


「この子、アイドルになるのよ」


 登は数秒固まるように考え、口を開いた。



「ア、アイドル?」



 あたいと登はソファーに腰掛け、正面には片桐が座りお茶を出してくれた。



「ケイちゃんがアイドルって、本当?」


「本当よ、さっきの映像見たでしょ?ここはヤ○ザの事務所じゃないわよ、もう」


 登は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに下を向いていた。


「たく、誰がヤ○ザの事務所に乗り込むかよ、あたいはそんなに馬鹿じゃないよ」


「ごめん、つい、でも」


「でも?」


「ケイちゃんが心配だったんだ。いつも笑ってなくて、誰かとケンカしてたから」



「あたいだってケンカしたくてしてるわけじゃねぇ、それにあたいはそういう生活から抜け出すために、ここに来た、気がする」


「そうなの?」


「そうだ、新しい自分になるためにア、アイドルやるんだ」


 自分で言ってて少し照れたが、偽りのない本当の気持ちではあった。


「ケイ」


「なんだよ?」


「やるって言ったわね」


 しまった。言ってしまった。


「必ずいつかデカいステージに立たせてあげる。だからケイ、あんたも全力で頑張ってもらうわよ」



「言ったな片桐。じゃあこっちも全力でやらさせもらうわ」


 


 あたいと登は事務所を後にし、二人一緒に家まで帰ることにした。


「まさかケイちゃんが、アイドルやるなんてなぁ」


「あんまり何回も言うなよ、殴るぞ」


「からかってるんじゃないよ、僕は嬉しいんだ」


「何が?」


「ケイちゃんがケンカじゃなくて、誰かを楽しませるアイドルになるって事がだよ。ケイちゃんは可愛いからきっと人気者になるよ」


「どうなるかわかんねぇけど、やってみるわ。ま、心配してくれてありがとよ」


「僕、ケイちゃんのファン第一号になるよ、応援に行くから」


「恥ずかしいからやめろ」


 こうしてあたいはアイドル活動を行う事になり、今までとは違う新しい生活が待っている。


 期待と不安が交差しながらも、胸がドキドキしている。果たしてどうなることやら。

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