第2話 ヤンキーJK夏目ケイ、アイドルになる2

「そんなの聞いてねえ!お前がステージとか戦うとか言うからあたいは格闘技の話かと思ったんだ!あたいはやらねぇぞ!」


「出演するはずだった子が体調くずしたのよ、今日だけでいいからお願い」


「嫌だ、あたいは絶対でない」


「まだあなたがどんな人か知らないけど一回やるって言ったわよね?やるって言ったからには筋を通すのが人ってもんじゃないの?」


 ぐっなんか正論っぽい事言い出したぞこのババァ。


「それにあなたね、可愛いわよ」


………可愛い?このあたいが?


「世の中ステージに上がりたくても上がれない人もいるの、だけどあなたは違う。可愛いっていうのも才能、あなたは選ばれた人間なの。色んな人を癒してあげる事のできる唯一無二の存在。だから私はあなたに目をつけた」


「………」


「それに見て、満杯とは言えないけど色んな人がこのイベントを楽しみに待ってるのよ。」


 舞台袖からカーテンを少し巡り、覗いてみるとまちまちだがお客さんはいる。楽しみにしている、か。


 しかしあまりにもヒラヒラな可愛い衣装すぎてさっき見た自分の姿を思い出し恥ずかしくなり涙目になった。


「ちょっとMCして歌も口パクでいいから一曲歌ってくれるだけでいいの、ケンカする度胸があるならそれくらいできるでしょ」


「うーん…」


 色々な考えが浮かぶがそういう頭の使い方は得意じゃないので、腹をくくることにした。


「わかった、やる。やるって言ったからにはやる。でも今回だけだからな」


「ありがとう、ケイならそう言ってくれるって思ったわ」


「いきなり名前で呼ぶんだな」


「そりゃあ私達は手を組んだ言わば仲間よ、よろしくね」


 どうやら時間が来たようでステージにライトが照らされ、大きな音が鳴り響いた。


「行って行って!」


「おう!」


 ステージに出るとちらほらいるお客さん達が声をあげた。


 何か喋らないといけないって言っていたが、何を喋ればいいんだ?自己紹介か?


「み、みんな、はじめまして、な、夏目ケイっていいます、周りには…黒龍の夏目って呼ばれてます。好きなものは素手で戦うこと、嫌いなものは木刀です。よ、よろしく。」


 なんとか自己紹介はできた。


 自己紹介を終えるとうむも言わさず曲が流れたのですぐに歌っているふりをした。


 足が震え、緊張からとライトの熱が強く、以上に汗をかいた。


 歌もなんとか終わるとお客さんはあたいに拍手してくれた。


「………」



 ようやく冷静にステージから客席の方を見ることができた。そこには楽しそうな笑顔が咲いていた。


「これが、アイドルの世界か」


私は軽く頭を下げ急いで舞台袖に戻った。



 ーーーイベントは終了し、簡易なステージもスタッフの手によって解体されるのをあたいと片桐という女は二人眺めていた。


「なんとか終わったわね、ありがとうケイ」


「礼なんて言われてもあたいは大した事はできなかった。…でもお礼が言いたいのはあたいの方だ」


「なぜ?」


「あたいは小さい頃アイドルに憧れてたんだ。でもいつの間にかケンカばっかする生活になっちまってよ。あたいには程遠い世界だったのに今日一回だけでも夢が見れた、それが嬉しかったんだ」


「ケイ…」


 お客さんの笑顔が目に焼きついており、それを思い出すとあたいもなんだか表情が柔らかくなる。


「ケイ、あなた制服着てたって事は学生よね。時間があるならもし良かったらだけどうちの事務所でアイドル見習いとしてきてみない?」


「アイドル見習い?」


「そう、見習い。あなたはまだまだ荒削りだけどきっとアイドルとして才能があるわ。あとこれ、さっきまでバタバタしてたからこれ渡しておくわ。私の名刺と謝礼よ」


「謝礼?いいのかそんなもんもらっちまって」


「わたしのポケットマネーよ、大事に使って」


 こうして私達は解散し、事なきを得た。


 NIONの外に出ると久しぶりに空を見上げた。うっすらと見える一つの星に目を向けた。


 人生つまんねぇって思ってたけど、生きてりゃたまにはおかしな事もあるもんだ。


 アイドルをやろうとかはまだわからないが小遣い稼ぎにはいいかもな。そういえば謝礼をもらったんだ、この季節に合うようなカーディガンでも買おう。

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