第3話 入団セッションテスト


 沢山のシャボン玉、そのシャボン玉の色は虹色のように輝いている。

 それは洗剤から作られたのだろうかと思われるが、臭いが洗剤ではなかった。

 それは嗅いだことのない無力感に包まれていた。



 不思議なことにそのシャボン玉に乗っても割れることはなかった。


「特別性の魔法でね、そう簡単には割れない、しかしあと5分ですべてが割れるだろう、あのてっぺんまで登ったらお主をクレイジーサーカス団への入団を認めよう」

「やってみせます」

「ではがんばれ、いざがんばれ、そしてがんばるな」


 意味の分からないことを呟くピッツンバーグ団長はピエロトの隣でこちらにちょっかいをだしたり、意味の分からない言葉を発して妨害しようとする。


 こちらは必至に冷静になりながらも、

 心をかき乱してくるピッツンバーグ団長のことを無視することで手一杯だった。


 シャボン玉は上に行けば行くほど数は少なくなっている。

 あと数分しかないのだろう、

 こんな所でシャボン玉が割れたら今度こそ確実に死ぬだろう。


 だけど男には命を賭けてでもやらないといけない時がある。

 父親の名言だったりするけど、どこかの偉人が言ったことなのだろう、


 そのような事はどうでもいいとばかりに、ひたすら上り、頂上に達した。


 すると隣に立っていたピッツンバーグ団長がにやりとほくそ笑み。


「これで生き残ったらおめでとうだね、じゃ」


 そういってピッツンバーグ団長の足音にあるすべてのシャボン玉が破裂する。

 それは自分が今立っている一番高い場所のシャボン玉も割れるという事であった。


 そしてピエロトは死を覚悟した。

 しかし地面に落下をし続けている中。


【スキルを習得しました:跳躍(ビル20階建てくらいまで飛び上がることができる)】


 そういう内容が頭の中に響いた。

 まるで頭の中に小さい人間がいて、

 それが耳の鼓膜に向かって語り掛けているような、

 本当に不思議な感覚、


 気づけば地面に着地していた。


 何事もないように、

 そして骨が折れた訳でもないし、地面に亀裂が入った訳でもない、


 普通にビル10階建て分くらいはある大きなテントの真上の内側から落下したのだから。


 

「デリシャス、やはりその覚悟は本物のようですね」


 そう言っていた団長はごく普通に地面に着地していた。

 それは観客も団員たちも当たり前のことのように見守っていたのだろう。


 しかしまさか、入りたての道化師がとんでもない着地を見せるものなのだから。

 観客たちに包まれた寒気が一気に解放され。


「「「おおおおおおおおおおおおおお」」」

「「「おおおおおおおおお」」」


 歓声が響き渡った。


 ピエロトはその盛大な歓声に包まれながら。

 これが生きているということなのだと、

 体と頭と精神と魂で感じていた。


 不思議と涙が沢山でてこない、

 少しずつ少しずつまるで尿漏れのように出てくる涙は、

 ずっと永遠に覚えているだろうし、

 両親に早く報告したいと思ったのだ。


 その時だった。ぐらりと世界が折曲がった。

 次にねじまがり、それが眩暈というものだとようやく気付き、


 それを抱き抱えたのはなぜかあの少女のザスティンであったのは謎だ。

 けどなんでだろうザスティンから感じるオーラはとてお暖かかった。


―――――――――――――――

クレイジーサーカス団のテント

―――――――――――――――


 頭痛がした。

 よく母親が言う二日酔いという奴に近いそれは、

 振り返ってみれば、ピエロトはお酒を飲んでいないので可笑しい事に気づく。

 

 目をゆっくりと開けると

 そこにとても美しい女性がこっくりこっくりと椅子にすわりながらこちらを見ている。

 なぜか両手で右手を握りしめられている。


 その美しい少女がザスティンだと気づいたのは後ろに2体のムンとサンが眠っていたから。色々な薬品が棚に並べられている。


 どうやら医務室みたいな部屋なのだろう。


 ザスティンの顔をじっくりと見つめるピエロトは胸がどきんと跳ねた気がした。

 

 ピエロトにとっての恋愛は幼稚園で止まっている。

 幼稚園の時に告白したら、それを友達のスキだと勘違いされてそのままスルーとなる。

 まぁ幼稚園の恋愛ってそういうものなのかもしれない、

 恋愛の達人じゃないから何とも言えないけど。

 達人じゃなくても一般的な知識も無いし、それに童貞だしな、

 


 顔はそばかすが散っているし、どうやら調教師として芸を見せる時は化粧か何かで、そばかすを隠しているみたいだ。

 背丈はピエロトより頭1つ小さいくらいだろうか、

 胸はまぁ結構な大きさなのかもしれないけど、比べようがないのでわからない。


 後赤いミニスカートを穿いているので、生足を見てしまって少し何かが目覚めようとしており、


 するとザスティンが目を覚ました。

 彼女はこちらを見ると、慌てて右手から両手を話した。


「勘違いしないでよね、これは、うん、心配だから」

「分かってるよ、それで吾輩はどうなったんだ?」

「あんた覚えてないの? シャボン玉から驚異的な着地力で、ピッツンバーグ団長の入団テストに受かったのよ」

「へっぇ」

「へぇじゃないわよあんたわかってんの、ピッツンバーグ団長はこのサーカス団の中で伝説の道化師と呼ばれているの、その人に認めてもらって、その人の代わりに今後はサーカス団の道化師として働くのよ、意味わかってんのもう」


「はぁ、すごいという事は伝わりました。それ以前にこの世界に来てまだ数時間しか経っていなくて、この世界が分かりませんが、あれですかエルフとかドワーフとかいるやつですか?」


「あったり前じゃないのエルフとかドワーフとかリザードマンとか天使族とか悪魔族とか数えきれない程あるわよ」

「はは、という事はやはり異世界かぁ、現実世界に戻る方法はわかりますか?」


「召喚タイプならわかるけど、あんたの場合は天災みたいなもんよ、亀裂と亀裂の隙間を偶然入ったみたいな」

「そ、そんなぁ」


「まあ、あんたは根性でサーカス団で有名になる事に心がけなさい」

「まぁいいんですけど、夢はサーカスで働くことだし、ただ両親と祖父母にお礼を述べておきたかったんですけどね、吾輩」


「そっか、わたくしにも両親は居たけど母様は奴隷にされて、父様は行方不明よ」

「なんかすまん」


「気にしないの、わたくしは結果的にこのクレイジーサーカス団に入れたことは喜んでいるんだから、この2体の犬たちとも出会えたし」



 その犬たちだが犬ではない可能性があるのだがとは突っ込まないでおく。


「さぁ、飯食って元気だしな、明日はサーカスないから、色々と仕込んであげるわ」

「よろしくお願いしますザスティンさん」

「わたくしこそねピエロト君」


 ピエロトのサーカスライフが始まろうとしていた。


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