第2話 どこかわからない場所

 観客達がげらげらと笑う、結構必至なピエロトは走りまくる。

 その走り方が面白おかしくなる。そのように教育されてきたのだからそれが普通だ。


 ムンとサンと呼ばれた狼達はこちらをからかっているように、甘噛みで噛みついてくる。だが道化師はするりするりとそれを避けてしまいながら、


 面白可笑しくこけたふりをする。


 そんな事をしながら頭の中を整理整頓している。


 つまりここは魔法とかが存在する場所ということは、


 異世界というやつだろう、

  

 確かにここに飛ばされなかったら、ピエロトは顔面から地面にキスをして、

 頭がぐっしゃりとつぶれていただろうから、


 どうにかして現実世界に戻る方法を探さないといけない、

 

 まだまだ両親に親孝行をしていない、


 父型と母型の祖父母にも沢山のお礼をしていない、


 異世界で死ぬのは嫌だし、

 戻れないのも嫌だ。


 なぜここに異世界転移したのか、


 異世界召喚と異世界転移、どういった違いがあるのかは分からないけど。


 召喚は司祭みたいな人がやりそうなイメージ、

 転移は天災のように勝手に起こるイメージ。


 これはピエロトの独断だ。


 おっとあぶないお尻を噛まれそうになった。

 またどっと客たちが笑い声をあげる。


 こちらを見て口をぽかんとしているのが、

 ザスティンと呼ばれていた調教師だ。


 彼女は狼と命がけの追いかけっこをしているように見えるのがじゃれ合いだと見破っているようで、



 なぜ調教師ザスティン以外の人があの2体を制しているのかという疑問の顔を浮かべているようだ。


 

 道化師ピエロトはげらげらと盛大に声をあげて笑って見せると、

 狼犬たちがびくりと反応して、きゃんきゃんいいながら追いかける。


 ピエロトは先程、犬笛と同じ音を出した。

 彼には色々な才能がある。

 ピエロトの芸は突拍子もない事から生じるものだったりする。


 沢山の感性に包まれながら、結局はこうなる。


(しばらくはこのサーカス団で生活して、どうにかして現実世界に戻る方法を探そう)


 そういう結論に達するとやることは決まっている。


 宙返りをしつつ、後ろに回転、次に後ろ向きから前向きに変更すると。

 2体の狼犬を両手でキャッチして、

 喉を軽く撫でてあげる。


 ピエロトはサーカス団で犬たちの世話係をする事がある。

 なので犬たちがどこの部分を撫でられると喜ぶのかを理解できるし、

 固体差はあるが、この狼犬たちの弱点はすぐに見破った。


 こちょこちょとすると、狼犬たちはもう身動きがとれず、とろんとしている。


 そこに調教師ザスティンがやってきて、にかりと笑って見せる。

 

 その後ろから、タキシードのような衣服を身に着けて、上半身がふっくらとしているのに、下半身がきゅっと細くなっている男性がやってきた。

 杖をつつきながら、お客さんたちに盛大に挨拶をする。


「異世界からの来訪者よ、君の名前を教えてほしい」

「はい、ピエロトです」

「名字は?」

「あれ? あるはずなのですが、頭の記憶から消えています」


「よろしい、ではピエロトよ、お主を最高な道化師としてこのサーカス団に招待したい、受けるかな?」

「もちろん受けます。あちらの世界でも道化師をやっていましたから」

「それはそれは素晴らしい事です。あなたのような才能溢れる若者を我がサーカス団に招き入れる事が出来るとは、今日は良い事があったなザスティン」


「はい団長、でもこいつは別なサーカスにいたと、ということはスパイかも」

「これこれザスティン、1人の淑女ならきゃあああ、夜を共にしませんかとかいうものだぞ、この若者は童貞のようだ」


 するとザスティンは顔を真っ赤にさせると。


「もう、団長は下ネタをやめてください、それとそこの童貞」

「いえ童貞と言われたくないのですが、まぁ童貞ですけど」


 ピエロトはしょんぼりしつつも。


「じゃあ、ピエロトよろしく、じゃ、次はピエロの時間ね、団長やるんでしょ?」

「そうですねぇ、わしはこの地区の最高なピエロと呼ばれております。ではピエロト君、ピエロ、うむ君はピエロと認識したら間違いそうだ。なるだけ道化師と言いなさい、でだ、その道化師よわしとセッションしないかい?」

「はいやらせてください、ところでセッションとはなんですか」


 ずってーんとザスティンがぶっ倒れる。その景色を見て何を話しているか理解のできないお客さんたちはげらげらと笑っている。


「そうですかあなたの世界ではピエロまたは道化師のセッションがないのですが、セッションとは2人で面白おかしくしたり、殴り合ってみたり、もちろん本気ではありません、観客に面白おかしく見せること、1人の道化師ではなく1人以上の道化師でやることをいいます」


「やります、すげー面白そう」


「ではやりますか」


 ピッツンバーグさんは杖を地面に叩き、明快なステップを刻む、

 ザスティンは巻き込まれないように控室に戻っていく。


 ピエロトは唖然とそれを見ていた。


 ステップを刻み、ダンスのようにしている。ダンスしながら衣服が魔法の粉のように、

 タキシードが消滅していく、ほぼ同時、消滅するのと上書きされるのが同時なので、

 素っ裸を見られることはない、


 

「ではピエロの宴と行きましょう、これはピエロト君の歓迎会だ」

「ありがとうございます」


 いつしか両親を一人にしてしまっている心配から、

 この世界でどう楽しもうかとか、

 魔法があるんだから、自分だって習得できるはずだとか、

 習得したらその魔法で道化師としての芸の幅をきかせてやろうなんて思うように内心が変わっていった。。


 杖を持った上半身がデブで下半身がガリの団長の姿は、道化師そのものだった。

 頭には緑と赤のコントラスを混ぜた。不思議なパーマがあるし、

 衣服は緑と赤と青という派手な色合いになっている。


 ズボンはタイツのようではあるが、

 それがへんてこりんさを強調している。


 その姿を似て、ピエロトのピエロ姿より面白いみたいで、観客たちはピッツンバーグ団長を見て爆笑している。これは負けていられないと思った。


「さぁレクイエムスタート」


 音楽が流れる。

 その音楽は人々を小バカにしたような曲で、

 次から次へとうるさい鳴き声みたい笑い声の曲が続く、


 ピッツンバーグ団長は杖を地面に突き刺すと、

 そこからシャボン玉を出現させる。

 沢山のシャボン玉が浮かんできて、どんどんと周りの空気でも吸っているかのように大きくなるのであった。

 

 その1つにピッツンバーグ団長は乗ることに成功する。ふわふわと浮き上がりながら、ピッツンバーグはにやりとしている。そのにやり具合がまさに道化師の中の道化師というイメージそのものだった。


「ではテストを始めよう、セッションならぬ、セッションテスト、君にクレイジーサーカス団に相応しいかをね」

「クレイジーって意味わかってるんですか?」

「うむ、異常者みたいな感じ? 数世紀から続いている」


「はぁ、じゃ見てください、これが吾輩の道化師魂ですからね」


「さぁ着た前、わしについてくるのじゃい」


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