第591話 消えた皇帝


「……も…………よ」


 姿勢を崩しもはや死に体の高杉の口元が動いた。

 何か言ったようだが聞き取れない。


「戯言を」


 ウェントリアスには聞こえていたらしい。苛立ちを隠すように表情を消して、眼下の高杉に手を翳した。


 その手を握り込むと同時、高杉の周囲どころか俺の立っているあたりまで――つまりそこら中の空気が凝集した。


「おいおい!?」


 酸欠で意識を飛ばすのではなく、人為的に――といってもウェントリアスは人ではないが――圧をかけて圧し潰すつもりか。


 やりすぎだ。いくら守護精霊の所業と言っても帝国皇帝を殺してしまっては折角の講和が水泡に帰することなる。


「ウェントリアス!」


 俺の制止はいかにも間に合っていないタイミングだった。

 だが、結果だけを見れば制止は不要だった。



 高杉の姿が忽然と消えていた。

 


 飛梅か!




 



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