第590話 吹き荒れる“風”


 強い雨に濡れそぼった髪をかきあげて、戦うふたりを眺める。


 有利不利の話になると、優勢なのは肉の身体実体を持たないウェントリアスの方か。雷撃を避ける素振りも無い。対する高杉はウェントリアスが連発する風の刃を不可視の腕で捌くのに手一杯な様子だ。


「そろそろ飽いたな」


 ウェントリアスがつまらなそうにいった。


 俺はつい先日高杉と戦った時のことを思い出していた。あの戦いで決着をつけた手管と同じことがウェントリアスが可能なはずだ。


「字句通り、息絶えるがよいわ」


 “風”の名は伊達ではない。高杉の周囲の酸素を遮断するなど風の魔剣よりも上手くやってのけるだろう。


「……っ!」


 高杉が喉元を押さえて膝を着いた。

 対するウェントリアスは風に乗って宙に舞い上がった。

 見下す。


「敗者らしくひれ伏せ、小僧」

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