第587話 猛る“風”
以前こんなことがあったときは行商人のクラリッサだったなアレは面倒だった、などと思いつつ声の主を確認すると、クラリッサどころの面倒ではなかった。
「ユーマぁ!!」
再度俺の名を呼ぶ声を荒げているのは誰あろう我らが守護精霊“風”のウェントリアス様であった。俺はえらく不機嫌、というかめっちゃ怒っている幼女姿の大精霊に努めて明るく挨拶をした。
「おはよう、良い朝だな」
俺が軽く挙げた時にはウェントリアスの姿は視界にはなかった。
「なぁにが良い朝か」
悪態をつくウェントリアスは俺の挙げた手の指先に立っていた。はじめて彼女に逢った時と同じかそれ以上の冷たい目で見下ろしてくる。
俺が内心で「何か気に障ることしたっけ?」と思っている横で、高杉が小さくひゅうと口笛を吹いてニヤついていた。楽しそうだなアンタ。
「ユーマよ、余の領域内に存在を赦している悪霊憑きはお前だけぞ」
悪霊憑き。
俺の胸の裡で「ヤツ」がぎゃあぎゃあ反論をまくしたてているが今は無視。
ウェントリアスは笑みのままの高杉を睨み、
「そやつは殺す」
と言った。その言葉と同時、ウェントリアスの髪が風に揺れた。屋内だというのに彼女の周りには暴風が吹き荒れはじめていた。
「へぇ」
高杉の目にも明確な殺意が漲る。
おいやめろ。ホテルが壊れる。
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