第567話 屋上の魔法使い4


 不毛なやりとりを終えると、ナターシャは貯湯槽に両手を翳した。


 彼女は冒険者時代に「役立たず」とされていた。使えるのが「湯を沸かす」魔法だったからだ。俺からすればこんなに便利な魔法も無いのだが、戦闘してナンボの冒険者には不向きだったようだ。


 真剣な面持ちのナターシャの横顔を眺めているうちに、湯沸かしは完了した。


「ユーマさん、何か?」

「いや、なんというか、手際いいな、と思ってな」

「あははっ、おだてても何もでませんよ!」


 照れるナターシャに俺は質問した。


「ちゃんと休みは取れてるか? 毎日湯沸かししてもらってるわけだけど」

「はい! お休みの日は朝一番に湯沸かしすればあとは自由にさせてもらってます。遠出ができないのがちょっとだけ不便ですけど、ここの暮らしは気に入っていますし!」


 そう言って貰えるとありがたい。

 俺は笑顔のナターシャに感謝しつつ、


「今日の予定は?」

「お昼前からフロント勤務です」

「そっか。俺は館内か近辺に居ると思うから、何かあったら教えてくれ」

「はいっ!」

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