第522話 謙遜
「よくやってくれたね、我が英雄よ」
「その呼び方はやめろってどれだけ言ったら伝わるんだヴィクトール」
王宮に帰るなりヴィクトールの執務室に俺は呼び出された。
労いが煽りに聞こえるのはある種の才能だろうか。国の顔とも言える立場の者にそんな才能が必要かといえば絶対に要らないが。
「帝国軍を見事退け講和まで引き出すとは、想像以上の成果だよ。我が英雄を推す私も鼻が高い」
「お前の鼻のことは知らんが、この戦果は俺だけの力じゃあないよ」
「謙遜も過ぎると嫌味になるよ」
「自信は過ぎると慢心になるんでな」
「減らず口だね」
「お互い様だ。実際、帝国相手は俺ひとりじゃあ間違いなく負けてたよ。特に帝国皇帝高杉晋作。アレは規格外のバケモノだった。魔剣が揃ってたからギリギリなんとかなっただけだ」
最後まで
「うちの愚妹も英雄の器なのかもしれないね」
「いいんじゃないか? 英雄姫とかで打ち出せば人気が出そうだ」
「今でもエリザヴェートは人気者だからね。これ以上支持者が増えると僕の立場が危うくなってしまうよ」
ははは、と笑うヴィクトールだが顔は一ミリも笑っていないのだった。
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