第516話 桑原


 耳をつんざく轟音に身体が竦む。

 高杉の放つ必中のはずの雷撃は、見当外れの位置に落ちた。


「……君は今、何をした?」

「おまじないも試してみるもんだな」


 雷雲の影響で雨が勢いを増してきた。

 数秒前、落雷の直前に俺は雷避けのおまじないを唱えていたのだ、


 くわばらくわばら、と。


 菅原道真がその怨念から雷神になって以降も彼の所領であった桑原の地には落雷はなかった、という逸話がある。その故事から「ここは桑原ですよくわばらくわばら」と唱えることで雷避けのおまじないになる――らしい。


 上手く行ってよかった。

 効かなかったらおそらく死んでた。

 結果オーライもいいところだが、高杉の切札は封じた。


(ユーマよ、毒婦が目を覚ましたぞ)


 お、マジか。いや毒婦て。

 後方に下げたバネッサが目を覚ましたのを「ヤツ」が感知した。


 おあつらえ向きに雨も強くなってきた。

 今度はこっちの番だ。

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