第514話 二心

 笑っている高杉も、余裕がなくなってきているように俺には思えた。

 ミラベルの攻撃を捌くのに剣と不可視の手を常時使わされている。


「正に奥の手だね……おっと!」


 軽口を叩きつつ背後から迫る屍者の腕を躱してはいる。

 “百手”以前さっきまでなら軽くいなしていたはずの攻撃を、今は“飛梅”で跳んで避けた。


「見たかユーマよ」


 とミラベルが俺の顔でニタリと邪悪に嗤う。

 見た。

 回避に“飛梅”を使うのははじめてのことだ。

 やはり高杉の対処もギリギリになってきたということだ。


 高杉の対処を上回る攻撃の精度と密度を用意できれば……!

 

ユーマよ」


 ガクン、と視界がブレる。いつもと違ってモノが二重に見えるような奇妙な視界。ミラベルが視界の制御を完全には手放していないからだ。


 視界を共有し、精度の高い攻撃を各々の判断で行う。

 生身の身体は俺が動かす。

 召喚した死者の腕はミラベルが動かす。


 二本の生身の腕と無数の死者の腕。


 それぞれ別の思考・判断で動きながら有機的に連携していく。ある時は片方がフェイントに。またある時は全てが攻撃に。ひとつの体に二つの意識がある、そんなの俺たちだからできる芸当だ。




 これで決着ケリをつける……!

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