第507話 交代


「居付く」というのは武術の言葉で「特定のことに固執するあまり発想が狭まってしまい柔軟さを失ってしまう状態」を指すらしい。今の俺の場合は高杉の死角を狙うことにこだわりすぎていて狙いがバレバレだった、ということか。


 だからって全方位から飛来する刃物を平気な顔で弾き返すのは非常識だ。幕末の武士はみんなこのレベルだったんだろうか。日本怖すぎるだろ。蛮族かよ。


「芸としては楽しめたよ」


 高杉がゆらり、と動いた。

 来る、と思った。

 まだ遠くにあった高杉の姿が突然大きくなった。

 来る、と思った時には既に接近を許していたらしい。


 俺は地面を蹴って大きくバックステップ。高杉は音もなく追いかけてくる。


「このっ!」


 俺は地面に刺さっていた骨刀を遠隔操作。高杉の背中目掛けて飛ばした。高杉は後頭部に目でもついてるかのような動きで横に避けた。俺は飛んできた骨刀を手中に収めつつ、どうにかようやく距離を稼ぐことができた。


(かなりやりおるようじゃな)


 俺の裡で「ヤツ」が嗤った。


(どれ。儂が少し遊んでやるとしよう)


 俺が返事をするまもなく、ガクン、と視界が揺れた。

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