第483話 使者の名は

「……ほう」


 天幕に入ったイグナイトがいきなり不機嫌になった。怒気を通り越して殺気を放っている。おいおいどうしたと思って後ろから中を覗き込み、俺は絶句した。


 帝国の使者が上座――つまりイグナイトが座るべき位置――に腰掛けていたのだ。



 うっわ、と思わず声が出そうになった。

 何考えてやがるんだ。俺は帝国の使者を凝視し、そして全身を硬直させた。


 その男は小柄な体躯に姿。面長な顔に涼しげな笑みを浮かべ、気負った様子もなくこちらを値踏みしている。そんな余裕のある表情だった。


 俺が動けなくなったのは、その男の顔を俺が知っていたからだった。


「やあ、どうも」


 歴史の教科書で見たことのあるその男は自らをこう名乗った。


「僕はリーヨーン帝国皇帝、だ。おっと、このちまたではシンサク・タカスギと名乗るべきだったか?」

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