第470話 得物を持った危険人物


 エリザヴェートは今までと違った出で立ちだった。華美でない程度の装飾のついた部分鎧を纏い、腰にはレイピアのような細身の剣を差している。王族に近寄りがたいのか遠巻きにしている兵士連中が「女神だ」などと言っている。知らないということは幸せなことだなあ、などとしみじみ感じる。


「その細剣が風の――」

「ええ、風の魔剣アネモイです」


 エリザヴェートは魔剣を抜いて構えて見せてくれた。鞘から解き放たれた風の魔剣アネモイは不思議な光沢の刀身を中心にして空気の流れが発生させていた。空気流はすぐに風となり、風は旋風を巻き起こした。


「おいおいおい。制御できてるのかソレ?」

「御心配なく。私の言うことはきちんと聞いてくださいますよ」

「さっきノヴァが飛んでいくとか言ってたが、そんなこともできるのか?」

「できますよ」


 エリザヴェートは自信に満ちた表情をしていた。

 軟禁反省期間に少しは考えも変わったんだろうか。


「今すぐにでも帝国軍を皆殺しに、できますよ」


 自信と殺意に満ちた表情笑顔で、シュトルムガルド王国第三王位継承権者は朗らかに言った。


「我が国の平和のために私の力をお使いください。私たちの英雄、ユーマ様」


 変わってなかったか。人の性根がそう簡単に変わるわけもないが……。

 バネッサとどっちが扱いづらいだろうか、と胸中でぼやくと、「ヤツ」がゲラゲラ嗤った。

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