第471話 指揮官は不安を見せてはならない

「ではユーマ殿、今度こそ行ってきます」

「私とノヴァにお任せくださいませ」


 ふたりの魔剣使いはやる気満々だ。

 ここらで戦果を拡大したいのは山々ではあるが、こいつら――特にエリザヴェート――を戦場に出すのは危なっかしくてしょうがない。


「イグナイト殿下、宜しいですか?」

「……魔剣使いは貴様に任せると言ったぞ」

「あっはいそうでしたね」


 責任者は腕組みをして瞑目。忙しなく人差し指を動かしているのを見ると心配は心配なのだろうが、口出しするつもりはないらしい。あるいは我慢しているか。


 仕方ない。

 腹を括ろう。

 乱戦に送り出すよりもこちらが優位なうちに試す方がマシだ。


「エリザヴェート、ノヴァを抱えて飛ぶことはできるのか?」

「ええ、ここまでも飛んできたのです」

「マジか……。じゃあふたりで帝国軍の後方をかき回してきてくれ」

「かしこまりました!」


 エリザヴェートの良い返事。これが怖い。

 もうひとりには釘を刺しておこう。


「ノヴァ、あまりやり過ぎるなよ。ほどほどで帰ってこい。敵が反撃してくる前に撤収だ。いいな?」

「はい」

「絶対にエリザヴェートを傷つけさせるなよ」

「言われるまでもありません!」


 ノヴァも任せておけと言わんばかりの良い返事。

 周囲の将兵たちは「おお、流石は勇者様」とか言ってるが赤の勇者の為人ひととなりを知っている俺はただただ不安が増すばかりである。


「よし、じゃあ行ってこい」


 俺はどうにか不安を表に出すことなくふたりに出撃を命じたのだった。

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