第443話 曖昧な決着

 骨刀の刃を喉元に突き付けられたバネッサはしかし、戦意を喪っていなかった。

 彼女の両脇から水の槍が数本生成され俺をぴたりと照準する。


「……俺がアンタの喉にコイツを突き刺す方が早いと思うぞ」

「そうですか」


 俺が骨刀を持つ手に力を入れたのと同時、バネッサはほんの僅かに踏み込んできた。首筋に刃があたり、血が滲んだのに顔色ひとつ変わらない。マジかこの女。


 だからといって俺が引くわけにもいかない。気圧されたら負けだ。

 俺は頭のネジの飛んだこの女と睨み合った。

 虚ろな双眸に俺の引きつった顔が映り込む。

 


 まずい、と思った時だった。


「そこまで。両者武器を引いてくれ」



 審判役ヴィクトールがストップをかけた。流石のバネッサも第一王位継承権者の言うことは聞くらしく、槍をただの水に変えて弾けさせると俺から一歩二歩と退いた。


 俺も骨刀を引き、虚空へ仕舞いこんだ。手を虚空にねじ込んだまま握ったり開いたりする。手の震えを誤魔化すように。

 

「痺れたかね」 

「止めるのが遅いんだよ」


 にやにや笑いのヴィクトールに俺は悪態を吐いた。

 だがまあ、助かった。


 あのまま続けていたら俺もバネッサも――いや、俺の方がひどいことになっていただろう。






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