第402話 あなたの中に見え隠れする知らない顔

 後装式ライフル銃こんなものは購入一択に決まっている。どういう経緯でクラリッサの手元にあるのか知らんが、コレと次にお目にかかるのは帝国軍とやり合う時――なんて可能性だってある。というかおそらくそうなる。ならばダメ元でヴィクトールにでも引き取らせて研究させるべきだ。同じものは無理でも、前装式の火縄銃なら作れる可能性はある。たぶん。知らんけど。

 

「珍しいものだってことに異論はないな」

「そうだろ? そう思うだろ?」


 ここは交渉の場だ。「どうしても欲しい」という顔をすれば値段は高くなる。とはいえ最終的にヴィクトールに下取りに出すので幾らで買おうが特に問題にはならない。俺にとってはこの交渉は簡単なものだ。


「でもなあ、高いんだろ?」

「そこらの安物とは違うからな」


 クラリッサにそんな簡単な交渉をさせていいのか、という気がしている。これから先もっと難しい商いに直面する機会もあるだろう。だから少し勿体つけてみるのである。


「安物じゃないのはわかる。ただ、複雑すぎて量産できない一点モノの銃にそこまで出せないぞ」


 さて、クラリッサはどう出るだろうか。

 俺は食い下がってくるだろうと予想していた。

 だが――


「そっか」


 ――クラリッサはふっ、と表情を変えた。微かな笑み。


「じゃあ、オッサンには売らねーわ」


 ふむふむ、なるほど。…………んっ?

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