第398話 もう一度だけふたりして

 どうやらここは休憩室らしい。

 アイが俺を運ぶついでにふたりを連れてきてくれたようだ。これならふたりがぎゃあぎゃあ騒いでも他のお客様の迷惑にはならない。ナイス配慮。


「旦那! このお嬢さんはいけませんぜ。縁切り推奨しやす」

「オッサン! こんな顔色悪いのがアタシより使えると思ってんのかよ」

「なんですと?」

「なんだよ!?」


 俺は溜息が出そうになるのをぐっと堪えた。


「俺は喧嘩をやめてくれ、って言ったぞ」

「……」

「……」


 やっと静かになったか。


「まずはクラリッサ。リュカが誤解させたことはすまないと思っている。お前との取引をやめるなんてことはないよ」

「そうなのか?」

「話も聞かずにいきなり殴りかかったりしてこなければな」

「うっ」


 ようやく反省の色を見せたクラリッサから、ブルーノへと視線を移す。


「お前がこんなに短気だとは思わなかったよ」

「いや、旦那、それは」

「年齢は勿論、商人としての年季もブルーノの方ががずっと上なんだ。クラリッサに至らないところがあると思ったなら、先輩として後輩を導いてやってくれよ」

「……へい」


 何かを飲み込むようにしてブルーノは頷いた。

 やれやれ。


「クラリッサ、ブルーノ。どちらも俺の仕事に必要な存在だ。仲良くしろとは言わないけど、無益な喧嘩はやめないか。――商人は利益を出してなんぼだろ?」


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